石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『魔法の呪文を唱えたら(2)』(鬼八頭かかし、学習研究社)感想

魔法の呪文を唱えたら 2 (ノーラコミックス)

魔法の呪文を唱えたら 2 (ノーラコミックス)

クレアの片想いネタが光る最終巻

最強のぱんつアーティスト・鬼八頭かかしさんによる魔法学校百合4コマ。クレア(♀)のティエル(♀)への片想いっぷりが1巻よりさらにクローズアップされており、どのエピソードも可愛くてよかったです。ファンタジー設定がお話から浮かず、オーソドックスな笑いにうまく絡んでいるところも楽しかった。惜しむらくは、巻の半ばで「あれから2年後」と話がワープしていきなり完結を迎えてしまうことです。「ケータイの呪文」(ケータイアニメディア連載分)も入れて1冊にまとめるためにはやむを得なかったのかもしれませんが、だとしてもあまりにも唐突すぎたのでは?

クレアの片想いについて

1巻ではもう少し友情寄りだったクレアの想いですが、2巻では

やっぱティエルは私を友達としか見てないのかなって

と悩むシークエンス(p. 49)なんかも登場し、完全に恋愛モードになっています。さらに、

わっ わたし…ティエルのことが……す…すきっ…

と何度も告白(p. 22他)しかけては、その都度結局最後まで言い切れなくて無理矢理なネタでごまかすというヘタレっぷりが可愛かったです。そのネタが毎回超ベッタベタなところも、クレアらしくてよかった。

ちなみに他の百合キャラはというと、プラウディアは全方位に向けて遺憾なくその変態ぶりを発揮し、リリスは相変わらずレナーシャへの不毛な片想いに燃えています。ガチカプこそ成立しませんが妙な偏見もなく、楽しく読めました。

ファンタジー設定について

萌え漫画でファンタジー設定って意外と難しいと思うんです。一歩間違えば何か「黒歴史的な設定資料集」みたいなものに化けてしまう可能性大、というか。ところが『魔法の呪文を唱えたら』のそれは物語世界とうまくなじみ、オーソドックスな「笑い」をしっかりと盛り上げています。やはり、「ぱんつ>ファンタジー」「ぱんつ>魔法」というゆるぎなき柱が通っているからでしょうか。あと、キャラクタが皆生き生きしていて非常に人間くさいことも、物語に設定に負けないパワーを与えていると思います。レナーシャの金への執着など、とても面白かったです。

今いちだったところ

1冊のちょうど半分ぐらいのところで急に「あれから2年後」と卒業式エピソードに突入し、お話が完結してしまうので、脳みそがついて行けずにかなり混乱しました。ティエルと精霊王プロミネンスの関係やレナーシャの調査の目的など、未消化のネタがいくつか残っていたので、なおさらです。さらに、「完」と書かれた後に何事もなかったかのように「ケータイの呪文」(本編のサイドストーリー的な内容で、学校紹介ネタや過去話が多いです)が始まるところにも戸惑いました。いっそ「ケータイの(略)」を前半に持ってきて本編を後に回すなど、構成をもう少し変えた方がよかったのでは。

まとめ

百合4コマとしては申し分なく楽しい1冊でした。設定だけに終始しない生き生きしたストーリーもよかったです。ただ、本編の終わり方がいささか唐突に見えてしまうところだけは気になりました。もう少しゆっくりと時間をかけて伏線を回収するか、せめて1冊の最後で「完」を迎えるような構成にしてくれたらもっとよかったのに、と思います。