石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

森奈津子「ひとりあそびの青春」(ハヤカワ文庫『姫百合たちの放課後』収録)感想

姫百合たちの放課後 (ハヤカワ文庫JA)

姫百合たちの放課後 (ハヤカワ文庫JA)

私小説風傑作エロコメディ

「ひとりあそびの青春」は、同作者によるレズビアン官能コメディ『姫百合たちの放課後』文庫版にのみ収録された短編。私小説風エロコメで、たいへんに面白かったです。タイトル通りに思春期の自慰行為をモチーフとしたお話なのですが、淫靡なのに決してコミカルさを失わないのは森奈津子さんの本領発揮といったところ。苦みと切なさがふわりと漂うラストもよかったし、思春期のセクマイの怒りにもすごく共感できました。

淫靡なのにコミカル、コミカルなのに淫靡

レズビアン寄りバイセクシュアルな森さんの“私小説風味の”(あとがきより)小説とあって、当然のように「美しい女性に拘束されていじめられる」などのオカズ・ストーリーがみっちりと描かれています。それだけでも十分エロ面白いのに、オカズ中の一部の展開に対して、

「なんで中学生が、そんなに効き目の強い睡眠薬を持っているんだ?」
というツッコミを入れたくなる向きもありましょうが、とりあえず、鈴木さんが眠りこけた私をどうこうする展開になれば、多少の無理も許されるのであります。
というか、なんで、私が四半世紀前に使用していたオカズに関して、今さら弁解しなくちゃいけないんですか。十四歳の私がヌケれば、それでいいんですよ。ほっといてください。

と冷静なセルフツッコミが入るところ(p. 264)なんて、おかしくてたまりません。エロスと笑いがタッグを組んで怒濤の勢いで押し寄せてくる感じで、とても楽しかったです。

ラストも素晴らしかったです

爆笑したり興奮したりでとても忙しい作品なのですが、ラストに漂う苦みとノスタルジックな切なさもお見事。セクシュアリティを問わず誰でも幼き日を思い出してしみじみと微苦笑を浮かべてしまいそうな、ナイスな結末でした。

その他いろいろ

主人公が、昔の中学校が「男子は技術、女子は家庭科」という方針について、

文部省は、パンツも洗えないバカ男と、ドライバーも仕えないアホ女という、未熟な人間を二種類作り、二人一緒でないと生きられないように仕向けているのだ。

と憤るところ(p. 269)とか、すごくよかった。思春期のセクマイにとって、教育現場のヘテロセクシズムほど腹立つものはありませんものね。また、文庫版あとがきで

ところで、あまり知られてはいないようですが、レズビアニズムを「百合」と名づけたのは、ゲイ雑誌「薔薇族」の伊藤文學編集長です。

と、「百合」のルーツにはっきり言及してくださっているところ(p. 297)も、とても嬉しかったです。

まとめ

エロいわ笑えるわ最後でしみじみしちゃうわ、おまけに思春期のセクマイの憤りにも共感しまくれるわで、とても楽しい短編でした。この1編のためだけに文庫版を新たに購入した(フィールドワイ版は既に持っています)あたしですが、大満足でした。