石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『Sweet Peach! -スイートピー!- (1)』(水野透子+千手ちゆ、一迅社)感想

Sweet Peach! -スイートピー!- (1) (IDコミックス 百合姫コミックス)

Sweet Peach! -スイートピー!- (1) (IDコミックス 百合姫コミックス)

あざとすぎる百合ハーレム漫画

異世界に連れて行かれた主人公「桃香」が、美女たちにキスされまくりながら不思議な力で世界を救う(らしい)物語。うーん……。キスしたり身体を舐めたりと身体的接触だけは濃厚なんですが、エロ方面の演出があざとすぎて、最後までノレませんでした。ストーリーにも特に目を引くような新しさはないし、ひとことでまとめると「退屈」。

エロ方面があざとすぎ

桃香は「舐めても甘」い(p. 17)という不思議な体質で、くちづけなどでその香気を吸収した者には特別な力がもたらされるという設定。そんなわけで序盤から女性キャラたちが桃香とキス&スキンシップしまくりなのですが、恋情がゼロなんですよねこれらの接触には。キス中にキャラクタに頬染めさせてみたり息を荒げさせてみたりと「はいはいエロですよー色っぽいですよー」という演出だけにはご熱心なのですが、前後のコンテキストはすっかすか。こんなんで萌えろと言われましても、わたくしには無理です。

ちなみにキスシーン以外でも、

  • 「お清め」(立ったまま光と水を浴びるだけ)の最中なぜかオーガズムに達してしまう(pp. 69 - 71)
  • 女性4人で瞬間移動した後、なぜか乳や尻に顔を突っ込みあった「4Pでござい」状態で絡み合って出現し、「あっいやあっ!」「だめえっ!」などとハァハァ悶える(pp. 116 - 120)

など、「とにかくなんでもいいから悶え顔出しとけ&絡ませとけ」という演出方針が見え見えで、たいへん萎えました。女のコ同士の官能を、このように「偶然」という言い訳を借りてしか描き出せないところに、この作品の限界を感じます。

漫画研究家の藤本由香里氏はかつて、少女漫画のレイプやマゾヒズムの表現に関して、「「私が求めたんじゃないわ」という“言いわけ”を必要とする世代のセクシュアルファンタジーが求めた」ものと看破しました。それと同じように、『Sweet Peach! -スイートピー!- 』における「偶然」の連発も、やはり「私が求めたんじゃないわ」という一種のエクスキュースなのではないかと思います。要するに、同性間の欲望のタブー視またはヘテロセクシズムへの迎合がかなり強くうかがえる作品なわけで、百合ものとしてはそのあたりが物足りないと思いました。

ストーリーも陳腐

ひらたく言うと「異世界に呼ばれ、不思議な力で世界を救うヒーロー」+「n個のタスクをこなして世界を救う魔女っ子物」といった感じのお話です。つまり、よくあるRPG設定プラスよくある魔女っ子設定。キャラクタも今のところアマテラスやウズメ、天使に狐など既存のパターンをなぞるものがほとんどで、目新しさはあまり感じられません。何かひとつでも、「この作品でなければ絶対読めない!」というような強烈な個性があるとよかったのですけれど。

ただし

番外編「水蜜桃」や描き下ろし「桃酔花」を見る限り、この先桃香と藍令(狐キャラ)でカップル成立させようという意図があるのかな、と思えなくもありません。もしこの読みが正しければ、2巻以降はここまで「恋情ゼロでご都合主義的にアハンウフン悶える」という展開は減っていくのかもしれず、そこに一縷の望みを託したいと思います。

まとめ

「ありがちなストーリーの中で、ありがちなキャラクタたちが、恋愛感情もなしでご都合主義的にウフンアハン悶える」という、いかんともしがたい作品。特に、女性同士の官能を描くにあたってここまで「偶然そうなった」「なぜかそうなった」というパターンばかりに頼るというのは興ざめでした。2巻以降でもう少し違う展開になってくれるといいなと思います。