石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『蒼穹のカルマ(2)』(橘公司、富士見書房)感想

蒼穹のカルマ2 (富士見ファンタジア文庫)

蒼穹のカルマ2 (富士見ファンタジア文庫)

相変わらず面白いけど、百合百合しさはやや減少か?

シスコンならぬ姪コンの最強騎士「鷹崎駆真」(たかさきかるま/♀)の物語、第2巻。1巻が「万難を排して姪っ子・在紗の授業参観に駆けつける話」であったのに対し、今回も「万難を排して在紗のお誕生プレゼントを用意する話」と、背骨が一本通った姪コン話になっています。ギャグやアクションのキレも相変わらずで、サブキャラたちも皆魅力的でした。1巻の駆真のあまりに激烈な在紗マイラブ状態に比べると、今回のそれはややおとなしかったような気もしますが、これは2巻でトーンダウンしたというより1巻が凄すぎたんだと思います。巻をまたいで続いている伏線の回収時には嫌でも最大級の姪コンっぷりが発動しそうですし、あまり心配することもないかなと。あと、「同性愛」という概念に変な偏見がまつわりついてない描写もよかったです。

最強騎士とお誕生会

1作目もそうでしたが、「駆真が戦う」「駆真が在紗を溺愛する」というふたつのプロットのうち、後者がメインで前者がサブという構造がとても面白かったです。特に今回のお話では、駆真のクールビューティーなキャラと「そうきゅん」というキーワードのアンバランスさがおかしくてたまりませんでした。勝利よりもそうきゅん。名誉よりも姪、そしてお誕生会。このすがすがしいまでに極端な価値観が楽しすぎます。

百合百合しさはやや減少?

減少というか、1巻のテンション(『ジェノサァァァァァァァァァァイッ!』とかね)が激烈すぎたんだと思います。実際、2巻にだって、

ぬいぐるみを贈られ、驚く在紗の姿が目に浮かぶ。わぁ! ねえさますごい! なんで私が欲しい物分かったの? もう、ねえさまだーい好き。なんてほっぺにチューくらい貰えるかも知れない。駆真は脳がとろけそうになる感覚の中、さらに歩調を進めた。

といった感じのラブラブデレデレ描写(p. 18)は出てきてますしね。この巻で大分きな臭さを増している伏線が回収されるとき、おそらく駆真の最大級の姪ラブっぷりが(鬼神のごとき戦いっぷりとともに)炸裂することになりそうですし、現時点ではこれぐらいの溺愛ぶりでも十分いけてると思います。

同性愛描写に偏見なし

駆真が同性愛者ではないかと噂される場面が2箇所ほどあるのですが、そのどちらでも、「レズ」とかましてや「そっちのケ」だとかいう偏見チックな言い回しではなく、「同性愛者」という最も中立的な語が用いられていて嬉しかったです。また、その噂についても特に悪評であるとかいったとらえ方はされていず、ごくごくフェアな書き方だと感じました。

サブキャラもよかったです

槙奈や衛二などの新キャラもいきいきしていてよかったし、猫背の食わせ者・三谷原も相変わらず魅力的です。1巻ではあまりスポットが当たっていなかった鷹崎小隊の面々もそれぞれ個性を発揮していて、楽しく読めました。ちなみにアステナやウタもちゃんと活躍の機会を作ってもらえてます。ただ、1巻のゆらゆら姉妹が「総スルー」(あとがきより)だったとかで今回登場していないのは残念。3巻で返り咲いてくれると嬉しいんですが。

まとめ

前巻と同じく「戦いに勝つこと<<<<<<<在紗を可愛がること」という揺るぎない一本柱に支えられた、ユニークなアクションファンタジーでした。1巻に比べると駆真の百合百合しさはややおとなしめですが、それも伏線回収までの一種の「嵐の前の静けさ」なんじゃないかと思います。いや、「静けさ」なわりにはデレデレベタベタしてますが。ヨダレも垂らしてますが。キャラクタも増えてますますきっちりと構築されてきたこの物語が、今度どのような盛り上がりを見せていくのか、楽しみです。