石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『水の中のつぼみ』感想

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セリーヌ・シアマ

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美しく残酷な思春期ラブストーリー

15歳の少女マリーが美人で高慢なシンクロ選手フロリアーヌにせつない片想いをする物語。フロリアーヌは完全ヘテロでマリーの恋はうまくいかず、後半にすごく痛々しい展開もあるんですけど、あたしには面白かったです。

ひとつには、同性愛そのものがメインテーマでないところがいいんですよ。特典映像でセリーヌ・シアマ監督自らが語っていますが、これは「少女の欲望」を描いた映画であり、同性愛はあくまでその欲望のうちのひとつなんですね。実際、映画の中ではマリー以外のキャラたちのヘテロ的欲望もきちんと描かれており、かつ、全員がそれぞれに思春期らしい痛みを抱えていたりします。「同性同士だから」うまくいかないんだとか悩むんだとかいう意味づけはそこにはなく、少女たちが悩むのはひとえに「少女だから」なんですよ。そこが面白かったです。

あと、映像の美しさもよかった! なまめかしいまでの「水」の表現とか、色彩のみずみずしさとか。もちろん少女たちの肢体も。時々出てくる少年達の半裸の姿(これもキレイです)との対比で、少女たちの肉体のフラジャイルな美が強調されているところとか、うまいなと思いました。シンクロの場面であえて音楽を入れずに、「戦う少女達」の姿を強調するところも面白かったです。

後半の展開については賛否両論あると思います。あたしはフロリアーヌの「お願い」については「うわー」と眉をしかめながら見ましたが、この映画でもっとも残酷なのはそこよりもむしろ、マリーとフロリアーヌのキスシーン(前後のコンテキスト含め)なんじゃないかな。でも、そこでメロドラマぶって終わらずにあのエンディングにつなげていくところがとてもいいと思うんですよ。ネタバレを避けるため具体的なことは伏せますが、ラストシーンのあれって、要するに、「蝶々」じゃない? つまり、主人公は決して負けっぱなしで終わっているわけではなく、苦しかった羽化が終わってこれから飛び立つよ、という意味をこめた結末だと思うんです。あの「人生うまくいかないよね」的な笑顔も、くぐりぬけた羽化の苦しみをふっと振り返る一種の微苦笑なんじゃないかなー。だからこそ、そこで一緒に笑い合うのがあのキャラなわけだし、同性愛だけがテーマの映画でもないわけですね。

もっと言ってしまうと、エンディングにおける水は羊水の、光がさしこむ丸い小窓は羊水の中から見える出口の象徴じゃないかと思うんです。つまり、あの場面が表しているのは主人公の「再生」なんじゃないかと。だから決してあれが悲劇エンドだとは思わないんですよあたしは。

というわけで、あまあまいちゃいちゃ系ラブストーリーをお探しの方にはまったく向かないものの、「少女の欲望と、ひりひりするような思春期の恋」が見たい方にはおすすめですよこの映画。あたしは、とても好きです。