石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『日曜日に生まれた子供』(紺野キタ、大洋図書)感想

日曜日に生まれた子供 (ミリオンコミックス 37 CRAFT SERIES 27)

日曜日に生まれた子供 (ミリオンコミックス 37 CRAFT SERIES 27)

ほほえましくもエロティックな百合短編2編あり

基本BLな1冊ですが、収録作「いずこともなく」「昼下がりの……」の2編が続き物の百合話です。で、それが、またいいんだ。生真面目な女子高生「三輪さん」と、飄々とした同級生「守谷さん」の恋をさらりと描くこの物語は、「百合姫」掲載作。初々しさ・ほほえましさとエロティシズムが仲良く共存しているところが楽しいし、映画ネタを生かした伏線も心憎かったです。

初々しさ・ほほえましさについて

こちらは主に三輪さん担当。名前も知らない守谷さんをついつい目で追ってしまったり、守谷さんの掟破りの言動につい見とれたりと、実に可愛らしいです。仲良くなってからのドギマギぶりもたいへんキュートでよかった。

エロティシズムについて

こちらは主に守谷さん担当。いや途中から三輪さんも荷担してはいますが。守谷さんときたら、当たり前のように三輪さんのベッドで眠るし(お話の舞台は寄宿舎です)、強烈な殺し文句を「しれっと言う」(p. 186)し、「さらっと何気にすごいこと」(p. 188)をするしで、淡々としているようで実は相当アグレッシヴに三輪さんを口説きまくりなんですよ。ほのかな官能を秘めた好き感情が上品に描かれていく感じで、たいへんに楽しく読みました。

中でも非常に面白いと思ったのが、守谷さんが三輪さんについてコミカルに言い放つこの台詞(p. 187)。

視線がエロい

子供の時から「しっかりしたお嬢さん」で通っていた三輪さんが衝撃を受ける台詞ですが、あたしはこれ、変化球での愛の告白だと受け取りました。「視線がエロい」とは、すなわち「あなたの視線に性的な欲望を感じる」ということ。つまり、守谷さんは最初から三輪さんのかすかな欲望込みの恋情に気づいていて、さらにそれを好ましく思っていたからこそ近づいてきたわけですよ。序盤での図書室のエピソードや「蜘蛛女」(p. 171)や部屋替えの話は全部その延長線上にあったわけで、早い話がこの台詞は「私とあなたは性的な感情込みで相思相愛」という宣言でもあると思います。笑いに包んでそうしたメタメッセージを発した後、前述の「さらっと何気にすごいこと」に移行するという一連の流れが、非常に面白かったです。

映画ネタについて

『噂の二人』が出てくるところまではまだ想定の範囲内だったんですが、まさかオチでああ来るとは思いませんでした。やられたー。映画タイトルに絡めたちょっと色っぽい結末も、とてもよかったです。

まとめ

可愛らしいラブストーリーでありながらレズビアン・エロティシズムもしっかりと込められているし、それでいて終始上品かつコミカルだったりするしで、とても楽しいお話でした。こんなナイスな恋模様を神の視点で楽しめるなんて、なんて贅沢なんだろうと思います。この2編のためだけに1冊購入しても悔い無し、と言い切れますねあたしは。