石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『える・えるシスター(2)』(邪武丸、一迅社)感想

える・えるシスター 2 (IDコミックス REXコミックス)

える・えるシスター 2 (IDコミックス REXコミックス)

嫌味のない百合コメディ

身長179cm(自己申告)の妹「ふたば」を溺愛する姉「一菜」の行き過ぎた姉妹愛を描くコメディ、第2巻。相変わらず一菜のほとばしる愛情と欲情が描かれる一方で、異性愛規範色は1巻より薄まっており、ストレスなく読むことができました。百合ネタをたくさん仕込みつつ、決してそれだけに拘泥しないストーリーもとても良かったです。

一菜の愛情と欲情について

これはもう文句なしに楽しかったです。ついに堂々と「エロイ自分」を認めるわ(p. 57)、怪しげな「お誘いセット」(p. 51)は用意するわ、自分で展開したエロ妄想に我を忘れ、

私だってふたばちゃんの○○○○○○○○

と口走る(p. 54、後半伏せ字は引用者による自粛)わと、とどまるところを知らぬ愛と欲望の奔流が面白いったらありゃしません。ここでユニークなのは、こうしたアレな言動の傍らで、お姉さんらしくきちんとふたばを叱ったり、無自覚なラブい行為でふたばを悩殺したりという場面もしっかり描かれているということです。つまり一菜は、単なる「性愛のことだけで頭がいっぱいなヘンタイ」ではなく、「性愛のことでも頭がいっぱいだけど、何よりふたばのことを大事に思っているお姉さん」として描写されているわけ。この「お姉さん」な部分と「ヘンタイ」な部分との兼ね合いというか響き合いが、一菜というキャラをより魅力的なものにしていると思います。

異性愛規範の扱いについて

1巻では同性愛が「おかしな道」と形容されていたりして、いささかホモフォビアの気配があったように思います。が、この2巻では同性同士のキスが周囲から「あまぁーい♥」と喜ばれたり(p. 62)、同性と付き合っていると誤解された人が「友人たちからの尊敬(のようなもの)を勝ち取」ったりする(p. 86)という描写があり、異性愛中心主義はほとんど感じられなくなっています。そのへんも、とてもよかった。

唯一、ふたばが「同性愛者」の意で「そういう人」という言い回しを使っているところ(p. 149)だけが気にならんでもないですが(遠回しにしか形容しないのは『直接言及することがはばかられるもの』というスティグマ視の表れ、とも解釈できるので)、「そっちの人」「そういうシュミ」などと言われるよりはまだマシかなあと。とりあえず自分は、これぐらいなら許容範囲かなと思いました。

他に非常に面白いと思ったのは、百合コミックでありながら「美しい姫とその騎士(どちらも女)」とか、「ごきげんよう♥お姉様♥」などの既存の百合パターンをカリカチュアライズする視点があることです。パターンそのものを全否定するのではなく、「女のコ同士の関係を無理にそういうパターンにはめること」をコミカルに笑い飛ばすという姿勢が爽やかで、好印象でした。

百合以外の部分もナイス

一菜とふたば以外にも、姉妹愛チックな百合カプは複数描かれています。にもかかわらず、お話が決して百合ネタだけで収束してしまわないところがすごい。具体的には副会長のゲームネタや、存在感を出そうと頑張る茜子のエピソード、ふたばの友達作りの話など、どれもインパクトがあって楽しめました。どのキャラも強烈にキャラが立っているからこそ、ギャグやストーリーにこうした奥行きや広がりが出せるんだと思います。百合チックなああしたこうしたも面白いけれど、まず一篇のコメディとして屋台骨がしっかりした作りの作品だなあと思いました。

まとめ

今回はホモフォビアもほとんど感じられず、百合漫画としてもコメディとしてもスカッと楽しく読むことができました。一菜という強烈なキャラが、セクシュアリティだけでなく「お姉さん」としての側面も描かれているところがいいし、百合ネタだけでちんまりまとまってしまわない面白さもよかったです。3巻も楽しみ。