石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『カルボナードクラウン(1)』(東雲水生、双葉社)感想

カルボナードクラウン 1 (アクションコミックス)

カルボナードクラウン 1 (アクションコミックス)

お姫様と出会った少女の物語

内気な少女「藍子」と、カルボナード王室の王女「ルビィ」の恋物語。特殊な立地条件の全寮制学校「金雀枝(エニシダ)学園」を舞台に、ふたりの心の触れ合いと、王位をめぐる陰謀とが描かれていきます。単なる友情ものかと思わせておいて、一挙に恋愛チックな見せ場になだれこむ第6話にびっくり。また、百合話でありつつ男性嫌悪の匂いが皆無なところや、ルビィとそのきょうだいのキャラ立てがしっかりしているところもよかったです。ただ、「百合なロイヤルラブ+王家の権謀術数」というのは、すでに石見翔子さんの『flower*flower』があり、違いを打ち出すのが難しいところかも。今後どうやってこのお話にしかない要素をふくらませて行ってくれるのか、楽しみです。

一挙に盛り上がる第6話

ここがもっとも驚いたところ。第1〜5話は百合ものとしてはかなりぬるめで、このまま雰囲気百合または単なる友情物語で終わるのかと思わせるつくりなんですよ。ところが6話でいきなり様相が変わってきます。ポイントは2つ。まず、ルビィと藍子のバルコニーのシークエンス。あれを見て『ロミオとジュリエット』を連想しない人はいないでしょう。表面的な台詞そのものはあくまで「友情」路線なのですが、バルコニーというモチーフと、ふたりの頬の染め具合が、惹かれ合う心をはっきりと暗示していると思います。そこから少しだけ間を置いて、一気にp. 174のクライマックスになだれ込むところがまたすごい。これは嬉しいサプライズでしたね。

男性キャラも登場します

ルビィの兄「ラズライト」を始め、男性キャラが複数登場し、しかも重要な役割を担っています。女のコ同士のあれこれだけに特化した現実逃避的ファンタジーではないところが面白かったです。

キャラ立てがくっきりはっきり

カルボナード家のきょうだいはなんと7人。それなのにお話がすこしもごちゃごちゃしてこないのは、キャラ立てのうまさによると思います。7人の名に「宝石の名」という共通点をつくって覚えやすくした上で、ひとりひとりの性格がはっきりわかるエピソードを配し、さらに7人の中でも誰と誰が重要かひと目でわかるようになっているという親切設計な漫画なんですよ。キャラの属性(『メガネ』とか『ロリ』とかね)だけ設定して性格はすっかすか、みたいな巷の萌え漫画を周回遅れで抜き去る読みやすさだと思います。

ちなみに7人の中でも特にユニークなのはルビィですかね。特に、

じゃあ あなたは「人のため」って言うの?
あなたのことは誰が守るっていうのよ?

という台詞(p. 57)の深さに打たれました。「ツンデレ」みたいな既存の枠にはまらない独自のきびしさとやさしさがあって、よかったです。このへんもやっぱりキャラ造形のうまさですよね。

今後への期待

冒頭のパラグラフにも書きましたが、「百合なロイヤルラブ+王家の権謀術数」というのは石見翔子さんの『flower*flower』と同路線なんですよね。そのせいか、今のところいくつかの要素(腹に一物ある兄キャラとか、意味ありげな手紙とか)がかぶってしまっているところがちょっと残念。今後、この作品にしかない要素がより一層クローズアップされていくと、もっと嬉しいかも。

まとめ

ソフト百合と見せかけておいて、途中からぐっと恋物語っぽくなってくる、という緩急のつけ方が面白かったです。フツーに男性もいる世界であるところもいいし、ルビィに代表される、キャラの性格づけの鮮やかさも楽しかった。2巻でさらに独自の展開を見せつけてくれると、もっと嬉しいと思います。