石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『まんがの作り方(2)』(平尾アウリ、徳間書店)感想

まんがの作り方 2 (リュウコミックス)

まんがの作り方 2 (リュウコミックス)

時折不安をひらめかせつつも、さらさらゆるゆると物語は進む

新人漫画家「川口」&「森下」の関係を描くまったり系百合ラブコメ第2巻。美しく繊細な絵柄で淡々とギャグをかます、という芸風が波に乗っていて、面白かったです。ゆるゆるまったりとした流れの中にもチクリと胸を刺す不安の描写があり、それを契機として2人の間のボタンの掛け違いが浮き彫りにされていったりするところも、はがゆくて切なくてよかった。

不安とすれ違いについて

不安、というのは森下の側の不安です。1巻と違い、今回このふたりは表層的には最初から最後までラブラブ。昔の不純さはどこへやら、あの川口が今では何のてらいもなく森下を愛していることがわかるエピソードがてんこもりですし、端から見ても恋人であることがかんたんにバレてしまうくらい、ふたりは仲良くやっています。

その愛に嘘はないんですよ。川口も森下も嘘偽りなく互いのことを愛して、大事に思っている。なら何も不安材料はないじゃないかと言われそうですが、それが決してそうではないのが女のコ同士の難しいところ。いや、もっと正確に言ってしまえば、レズビアンとヘテロ女子(または、『特に女が好きなわけでもないのになんとなく女とつきあい出してしまった女子』)の恋の難しいところ。

第10話の森下のモノローグを、あたしは笑えません。あと、それをふまえた上での、彼女の

でも今幸せだからいいんです

なんて台詞(p. 119)も。

同性愛者に対して異性愛者はよく「世間の偏見が大変でしょう」なんてことを言います。でも、「世間の偏見」なんて、100%クロゼットでいさえすればかなりの部分は避けられるんですよ。レズビアンにとってもっと大変なのは、ヘテロ女子に一時だけのお相手として使い捨てられること。一度は愛だの恋だの言っていた恋人から、手のひら返して「やっぱ男がいい」とたいした良心の呵責もなしに捨てられることです。場数を踏めば、そういうことになりそうな相手には最初から近づかなくなるものですが、森下、高校生ですもんね。いくら本人が全て折り込み済みのつもりでも、柔らかな心にダメージが刻まれるところは、端で見ていて実にキツイです。

川口が森下のそんな思いにまったく気づかず、幸せそうに恋人恋人しているあたりのズレ方も、歯がゆくて切なくて胸が痛みます。脱力系のコミカルな日常描写の中に、さりげなくこうした棘が仕込んであるというのがこの漫画のあなどれないところだと思います。

ゆるゆるまったりとした流れについて

前述のようにチクリと不安要素をひらめかせつつも、必要以上に深刻ぶることなく、物語はゆるゆるまったりと進んでいきます。1巻と同じく、「まんがの作り方」に関する悲喜こもごもも語られれば、新キャラ登場など新しい動きもあるのですが、軽やかでまろやかな語り口調は一貫して変わりません。その一助となっているのが、文字に頼らず軽妙洒脱な「絵」に多くを語らせるという演出。「うつむいて川口の服の裾をつかむ森下の図」や、「研修中のシールを森下のおでこに貼る川口の手の動き」など、キャラクタの身体言語に独特のふわりとした間があり、それが一種のクッションとなって、お話のテンションをいい意味でやわらげている気がします。

絵柄とギャグについて

1巻と同じく、「繊細な絵柄とすっとぼけたギャグ」という取り合わせがとても楽しかったです。第8話の「貴金属」(p. 18)だけで既にハートをわしづかみにされました。投げやりなデフォルメの猫(p. 10)や、「ネットなんか見たら終わりだ」(p. 13)のコマもよかった。このお話は基本的にコメディだと思うんですが、笑いの部分が非常にしっかりしていて、安心して読んでいられます。

まとめ

脱力系のラブコメとしてまず面白いのに、胸を刺す切なさも巧みに仕込まれていて、面白かったです。必要以上に深刻ぶらず、日常の中にざらにある痛みをごくごくさりげなく描いているところがよかった。綺麗な絵柄で大真面目にギャグをかますという1巻以来のノリも楽しかったです。ラブラブ川口と不安な森下の間のズレが、3巻以降でどう処理されていくのか楽しみ。