- 作者: 森永みるく
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2009/09/12
- メディア: コミック
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わりかし予定調和な一冊。広げた風呂敷は端っこだけたたまれてます
女子高生同士のラブストーリー、第3巻。予定調和的にずべらーんと広げたままの風呂敷を、最後に端っこだけちょこっとたたんでみせた、といった感じの展開です。王道と言えば王道。月並みと言えば月並み。異性愛主義っぽい台詞にきちんとフォローが入っているところに「おお!」と驚きつつ、しばし「そういう人」呼びについて考えたりしました。
広げた風呂敷、わりとそのまま
2巻最後の怒濤の展開は、まりによって「変な冗談」と片付けられてしまい、そこから後は、「まりが『彼氏』の原田くんとの距離を縮めてみる」という、一種の当て馬展開がしばし続きます。というわけで、3巻ではまだ♀♀カップルは成立せず、お話の焦点はあっこの側の悶々に置かれます。
これを「肩すかし」と取るか「今後の展開に必要な布石」と取るかは人によって意見が分かれそうですが、あたしは後者をとりますね。相思相愛関係を完成させるには、あっこの側の気持ちの高まりが必要ですし、3巻はそのための、いわばコマンド「ためる」の巻だったのではないかと。
ただ、いくら「ためる」にしても、冗談と言ってごまかすとか、ことさらに男に接近してみるとかの展開は、正直言ってありがちすぎるような気もします。リアル感こそありますが、広げた風呂敷を誰にでも予想できる方向にべろーんと広げている感じで、いささか新味に欠けるのではないかと。何かもう少し意外な部分が仕込んであれば、あっこのドキドキや切なさもより一層きわだっただろうに、と残念に思いました。
最後にちょこっとたたまれる風呂敷
最後の最後に、2人きりになったカラオケ屋で誤解が解け、1〜2巻のラストを思わせる展開になっています。まずは2人がここまで漕ぎ着けてよかったよかった。
しかし1〜3巻すべてこのパターンのオチというのはある意味チャレンジャーかも。これで4巻でも2人がくっつかなかったら今度こそ「肩すかし」感が漂うんじゃないかと恐れているんですがどうでしょう。
異性愛主義にフォローあり
カラオケ屋でまりがあっこに
ご…ごめんね…
ずっとそういう目で見てた訳じゃないんだけど…
と謝る場面(p. 167)があり、そこだけ見るとめっちゃめちゃに異性愛主義爆発状態なんですが、面白いことに、この作品にはそれを相対化する視点があるんですね。というのは、上記のように謝罪されたあっこの側が、…ごめん…気持ちわるいよね…
と素で疑問に思ってたりするからです。これには「おお!」と思いました。内面化されたホモフォビアを「そう思うのが当たり前」みたいに絶対視しないところがいいなあと。あと、その直前のまりの、なんで謝るんだろ…?
という台詞を見て、同性愛者の「そういう人」呼称についてしばし考えたりもしました。個人的には同性愛者を「そういう人」「そっちの人」「そっちのケ」などと遠回しに形容するのは好きじゃないんですが、まりのこの台詞はそんなに気にならなかったんですよね。で、それはなぜかと考えるに、「相手を完全に他者視した上で相手の『逸脱』性を演出するレイベリングではないから」だと思います。そんなところもちょっと興味深かったです。あっ でも別に私がそういう人って訳じゃないと思うんだけど! あ でもわかんないんだけどねっ
その他
相変わらずガーリッシュな雰囲気が楽しいです。あと、いろいろ見通していそうなすぎさんのオトナっぷりがよかった。
まとめ
わりかしありがちな方向で足踏み中の1冊。「足踏み中」なことについては、ハッピーエンディングに向けての布石だとわかりますし、じゅうぶん納得できるんですが、「ありがち」なところだけはちょっと残念かなあ。とりあえず同性愛嫌悪を所与のものとして恋の障害にまつりあげていないところはすごくよかったです。1冊まるまる「ためる」ことで上がったあっこのテンションが今後ふたりの恋にどう影響するのかと、4巻を読むのが今から楽しみです。