石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『温泉惑星』(高木信孝[画]/かくばやしつよし[原作]、芳文社)感想

温泉惑星 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

温泉惑星 (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

温泉が舞台のほのぼのコメディ(百合あり)

とある恒星系にある小さな温泉惑星サンタモニカを舞台に繰り広げられるほんわかコメディ。温泉惑星を切り盛りする4姉弟と毎回のゲストとのすったもんだが、読み切り形式で綴られます。一部に百合なお話もあり、面白かったです。あと、4姉妹じゃなくてあえて4姉弟にしたところもよかったと思います。

百合な話はたとえばこのへん

まず、主人公アクア(♀)の友人ニィノ(♀)がアクアにべた惚れで、「友達のステップを越えていよいよ次のステップに」(p. 77)進もうと企んだりしているところ。とは言ってもニィノはよくあるセクハラ加害者型のレズビアンキャラではなく、むしろその逆の初々しくておバカでいたいけなキャラクタであって、そんなところもよかったです。アクアの言動にいちいち頬染めてドキドキしてるところとか、可愛かった。

他には、女性写真家がアクアの姉パールを「私の子猫チャン」と呼んで可愛がったり、アクアに「食べごろじゃなーい」と言って抱きしめたりしているところとか。あと、これは単なる絵面の話になるんですが、とあるいきさつでアクアの頬についたジュースをドリンク会社の営業女性が舐め取るところとかも、百合っぽいと言えば百合っぽいかも。

百合がメインテーマの作品ではないのですが、そんなわけで、百合っぽいフレーバーがかなり多めの漫画だと思います。

4姉「弟」なところもナイス

基本的に「女のコたちが毎回温泉でキャッキャするお話」でありながら、アクアたちのきょうだいを4姉妹ではなくあえて4姉「弟」とし、男性キャラ(とは言ってもショタキャラですが)を残しておくところがいいと思いました。男なんて見たくない、全部女にすればいいのにという意見もありそうですが、あたしはそうは思わないんです。

千利休が武野紹鴎の弟子になったとき、庭を掃けと言われて、全部きれいに掃き清めた庭にわざと2、3枚の落葉を落としておいたという話があります。紹鴎から「どうした?」と問われ、利休は「何もないというのは風情がないものです。そこでわざわざ落葉を落としました。いかがでございましょう?」と答えたそうです。これと同じで、あまりにも完璧に「男性」を排除しきった百合話というのも風情がないとあたしは考えます。そこまでやると「女のコだけの清浄な世界」なんかではなく、「強迫的な男性嫌悪の世界」の香りが強くなってしまうと思うんです。そんなわけで、弟のジェロくんの存在にはほっとさせられました。

その他

単純にコメディとしても面白いですよ。肩の力の抜けたなごみ系のお話で、リラックスして読めます。

まとめ

ほっこりしたコメディとして十分面白い上に、百合な部分にも妙な偏見がなく、楽しく読めました。百合メインのお話をお探しの方には不向きかもですが、そうでなければおすすめ。