石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『あかね色シンフォニア』(瑞智士記、一迅社)感想

あかね色シンフォニア (一迅社文庫 み 3-3)

あかね色シンフォニア (一迅社文庫 み 3-3)

小説というより「ヲタ向けDTM入門書」。百合部分もかなりあざといです

高校のDTM(デスクトップミュージック)部に入った主人公「茜根そな(あかねそな)」が、変人の部長「女郎花祭子(おみなえしまつりこ)」に翻弄されつつ音楽創りを学んでいく物語……のはずなのですが、小説と呼べるほどのストーリーは存在しない気が。お話に起伏らしい起伏が見受けられない(起承承承承承承……結、みたいな)上に、キャラたちはきらびやかなだけで人間味が薄く、百合百合しい絡みもあざとすぎて、個人的には今ひとつ。ただしDTMに関するくだりは面白く、これからDTMを始めようと考えている人には良いとっかかりになる1冊かもしれません。

話の山場はどこ行った

主人公の音楽活動があまりにもとんとん拍子で、物語らしい壁とか葛藤とか山場とかがほとんど見あたりません。小説というよりただの日常記録になってしまっているような気が。そなが椿姫から軽音部にスカウトされた時点で「ようやくクライマックス到来か!?」と思ったのに、たいした葛藤も対立もなく「ごめんなさい」「もういいよ」で終わってしまった日には、たいへん拍子抜けいたしました。また、結末まであとわずかというところになって、突然祭子の母・蝶子を出してきたりする意図もよくわかりませんでした。ひょっとしたら2巻に向けての布石なのかもしれませんが、1巻のストーリー上必要だったんですか、あの部分?

百合はあるけどあざといです

恋愛要素はほぼなく、絡みはあざといセクハラネタ主体で、ちょっとついて行けませんでした。全年齢向け小説ではありますが、この作品における百合シークエンスのちりばめ方には、どこかポルノ小説を思わせるものがあります。あくまで「百合百合しいオカズをどこまで散りばめられるか」重視で、好き感情やストーリーの流れは二の次三の次、みたいな。

従って、「とにかくキャラが物理的に接触して体をまさぐられたりパンツ脱がされたり乳揉まれたりするシチュエーションがいくつあるかが重要」と思われる方の目には、これは素晴らしい百合小説と映ることでしょう。逆に、「セクハラ嫌い」「物理面より心理面の盛り上がり重視」という方にとっては、これはかなり残念な作品になるのではないかと。

あ、でも「匂い」を使った描写の特異な雰囲気や色っぽさはすごかったと思います。没個性的なキャッキャウフフの百合小説を書こうとしてもどうしても立ち上ってしまう色気というか癖のようなものがそこにはあり、とても興味深く読みました。

キャラもなんだか薄っぺら

ひとことで言うと「美貌と才能のインフレ」。一見平凡な主人公に実は隠れた才能があって……という設定はライトノベルのお約束だからOKとしても、主人公以外のDTM部のキャラたち(と、椿姫)までことごとく中二ドリームの具現チックなところが自分には合いませんでした。ドラえもんにですら「ネズミに弱い」という弱点があるというのに、この作品のメインキャラたちにはそうしたきわだった弱点・欠点が見受けられず(一応設定されているキャラもいますがわりと紋切り型)、人間らしい魅力を感じにくかったです。

DTM描写について

門外漢にもわかりやすく、するする読めました。ひょっとしてこれは小説ではなく「よくわかるDTM入門」だったのか!?

まとめ

ストーリーもキャラ立ても百合も、あまりにもぐだぐだすぎる作品でした。ある種の色っぽさや、DTMについての説明のわかりやすさはよかったのですが、それだけ。百合ものとしても小説としてもおすすめしません。