石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ラブフェロモンNo.5(1)』(岩崎つばさ、双葉社)感想

ラブフェロモンNo.5 : 1 (アクションコミックス)

ラブフェロモンNo.5 : 1 (アクションコミックス)

匂いフェチから始まる相思相愛百合漫画。ただしトランスへの偏見あり

匂いフェチの「都築かをり」が、新入生「飯田香菜」の匂いに夢中になり、押しの一手でついに相思相愛になる百合4コマ。「フェロモンを言い訳にしてヘテロ女子がレズビアンごっこを繰り広げる」系の漫画かと思いきや、ぜんぜんそうじゃないところが嬉しかったです。このお話には単なるフェチを超えた深い愛があるし、恋愛の本質を突くかをりの台詞も鮮烈。また、ダイナミックな線で描かれる表情の豊かさも魅力的です。そんなわけで百合漫画としてはとても良かったのですが、一部にMTFトランスに対する偏見が剥き出しになっているところがあり、玉に瑕とはこのことかと思いました。そこさえなければフルパワーでおすすめするところだったのに、と残念です。

単なるフェチを超えた愛

事前情報で「匂いフェチ」という要素を知ったときにはやや警戒したんですよ。タイトルがタイトルですし、PCレズゲー『ホリゾーンの上〜預言の書』『オトメクライシス』(みたいに、ヘテロ同士に都合よくレズビアン的な絡みを演じさせるための口実として「フェロモン」が持ち出されていたら嫌だなあと。

でも、それはまったくの杞憂でした。まず、巻の半ばで「かをりは香菜の匂いだけが好きなのか」というテーマがはっきりと持ち出され、香菜の側に

好きと言われて不安になって 怖くて離れたらもっと不安で 私…何してるんだろう

という心の動きが生まれている(p. 69)ところに注目。その後「最初は確かに匂いだけだったけど…今は全てが好きだって」という結論に到達し(p. 72)、相思相愛イチャイチャモードに突入するところにも注目。そして第18話の、匂いの嗅ぎようのない状態でのクライマックスにも注目。結局、この作品における「匂い」は、異性愛者にレズビアンの真似事を演じさせるさせるための言い訳ではなく、ふたりが恋に落ちるきっかけでしかないんです。

ちなみに全部読んでから最初のページをもう一度読み返すと面白いですよ。実はお話の冒頭で既に、(1)香菜にとってかをりが運命の人であること、(2)かと言ってステレオタイプな女子校姉妹百合漫画にはしないことが暗示されているのがよくわかります。そんなわけで、この作品は「『匂いフェチ』というユニークな切り口を使ったラブラブ両思い百合漫画」であるとあたしは結論づけました。そのへんが気になって未読な方には「安心して読んでみ」と言いたいです。

恋愛の本質を突くかをり

かをりに熱烈な片想いをしている流々というキャラがいます。この人はなんとか恋を成就させんと常軌を逸した努力をしているのですが、そんな流々にかをりが笑顔で言い切る台詞(p. 115)がこちら。

流々はがんばってる けど…
がんばったらなんでも報われるわけじゃないからー(きっぱり)

これって恋愛の本質だと思うんですよ。
恋愛には努力原則は当てはまりません。つまり、努力に比例して相手の心を変えられたりはしません。「頑張ればあの人を振り向かせられる」とかいうのは、呪術思考かコントロール欲求か、あるいはお子様ドリームに過ぎないと思うんですよ。そうしたドリームを煽ってお子様に迎合するフィクションも少なくない中、この漫画は身もフタもなく恋の真理を突いているところが痛快でした。

絵柄もよかったです

太めの線で勢いよく描かれる表情がとてもよかったです。特にキャラたちの目ヂカラがすごい。いわゆる「萌え絵」のうつろな目をした美少女キャラとは対極をなす、ヴィヴィッドな魅力にあふれていると思います。

トランスフォビアはちょっとひどい

ある箇所でMTFトランスに対するあからさまな偏見が露呈されています。とあるキャラが男性から女性になったことについて、他のキャラたちが

  • 「なんとも受け入れがたい出来事」
  • 「なにそれサイテー!!」
  • 「そんな悪いお兄ちゃんはポイしちゃいなさい ポイ!」

と言いたい放題言ってる(p. 109)んです。何このトランスフォビア。シスジェンダーのあたしが読んでさえ胸糞悪くなりました。こういう台詞をキャラクタに言わせるなという意味ではなく、こうした価値観が相対化されず最後まで絶対視されたままなのが胸糞悪いという意味ですよ、念のため。

かをりと香菜の関係については特にホモフォビックな描写がされていないだけに、かえすがえすも残念です。同性愛に受容的になれても他の性的少数者にまでそうできるわけではないという典型例だと思います。せっかく楽しく読んでいたのにここで一気に気分が冷めてしまい、「このページなからましかば」と兼好法師のようなことを思いましたよ。

まとめ

百合部分はとてもよかったです。ノンケ同士の表層的なイチャイチャではなく本気で相思相愛な関係が描かれていますし、キスや告白なども十分ラブラブだったと思います。「匂いフェチ」という設定もユニークで、楽しく読めました。でも、それだけに、後半に出てくるトランスフォビアが痛いです。あのページだけホチキス止めして開かないようにしとこうかと思うぐらい。2巻ではそうした偏見が一掃されているといいなと思います。