石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

映画『Spider Lilies(刺青)』(※邦題は『Tatto -刺青-』)感想

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いたいけで美しいレズビアン映画。梁洛施(イザベラ・リョン)最高

いわゆる「ウェブカム・ガール」(ライブカメラを通してセクシートークをしたり体を見せたりするアルバイト)をしている少女「小緑」(シャオリュー)と、刺青の彫り師「竹子」(日系なのでそのまま『たけこ』。または中国語読みでZhuzi)のラブストーリー。周美玲監督による、台湾発のレズビアン映画です。刺青という要素を通じて登場人物たちの痛みや孤独を描いていくところが面白いし、ビタースウィートなストーリーもよかった。映像の美しさも特筆もの。個人的には、竹子の抑圧的なクールビューティーっぷりにクラクラしました。オチのあたりの展開がちょっと性急なところだけは残念ですが、あとはみんな好き。

刺青とキャラたちの痛み

ウェブカム・ガールとタトゥー・アーティストの恋というと、ポップで無軌道な今どきの若者(しかも女同士)をセンセーショナルに描く映画だと思われるかもしれません。でも、そうじゃないんです。刺青というモチーフを寓話的に使うことで、誰にでもある弱さや痛みを浮き彫りにし、そっと寄り添っていく映画なんですよこれは。竹子の師匠の言葉や、「彼岸花」「ジャスミン」という図案の意味が後々までずっしりと響き、生身の人間同士の痛々しくも可愛らしい物語として仕上がっていると思います。

甘いだけじゃない物語

甘いところは甘く、苦いところは苦く、というメリハリのつけ方がよかったです。フラッシュバックが多様されているのに少しも時間軸がごちゃごちゃしないし、クライマックスで現実が一気にバーチャル世界に流れ込んでくるところの怖さもすばらしかった。ラブロマンス部分も、描写は控えめながら十分切なく、色っぽいです。「抱いて」の場面の間とか、絡みのシークエンスの吐息とか、細かいところまでていねいに作り込まれていると思います。また、キャラたちのつらさを描くにあたって、同性愛嫌悪がまったく持ち出されないところも好印象でした。同じ台湾産のレズビアンものでも、小説『ある鰐の手記』とはえらい違い。もちろん、お話の背景となる時代の違いもあるのでしょうけれど。

ひとつだけ難点を挙げるならば、終盤が少し駆け足すぎるように感じられるところでしょうか。前半がかなりゆっくり目の展開なことを思うと、ちょっとバランス悪いかも。多くを語らず観客の想像にまかせるという方針には共感が持てますが、この作品の場合、はしょり過ぎてわかりにくくなっている部分があるんですよ。そこだけは残念。

映像美について

徹頭徹尾映像がキレイ。色調はおとなしやかなのに、終始水族館で美しい魚たちを眺めているかのような幸せな気分にひたれます。ラブシーンの美しさもよかったです。

竹子最高

イザベラ・リョン演じるところの竹子というキャラが良くて良くて、この人を見るだけでもこの映画を観る価値があるんじゃないかと思うぐらいでした。一見クールでストイックなボーイッシュ娘なのに、内面はとてもフラジャイルというギャップがたまりません。イザベラ・リョンの怜悧な美貌とたどたどしい日本語も萌え。『恋しくて』のメアリー・スチュアート・マスターソンのようなナイーブなトムボーイがツボな方なら、何を置いても見ておくべき作品だと思います。ちなみにお相手の小緑役の楊丞琳(レイニー・ヤン)もよかったですよ、ちょっと『下妻物語』の深田恭子を思わせるような生き生きした演技で。

まとめ

哀しみの中に愛と官能とささやかな希望とを垣間見せてくれる、心憎い作品です。レズビアン映画でありつつ、単なる小娘同士のベタ甘ストーリーでもオヤジ向けのポルノでもないところがとてもよかった。なにより竹子が魅力的すぎて、個人的にはこのキャラを見るためだけにDVDを購入しても惜しくはないと思えるほど。ちなみにうちでは米アマゾンで北米版DVDを購入して英語字幕で見たのですが、日本語字幕版は『Tatto -刺青-』というタイトルで2010年2月3日発売予定。既に日本のアマゾンで予約が開始されています。未見の方は、この機会にぜひ。