石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『此花亭奇譚(1)』(天乃咲哉、一迅社)感想

此花亭奇譚 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

此花亭奇譚 1 (IDコミックス 百合姫コミックス)

可愛いんだけど、そつがなさすぎ

もののけだけが棲む場所にある温泉宿「此花邸」を舞台とするファンタジー漫画。主人公「柚」をはじめとして、宿の仲居たちは全員狐耳の美少女という設定です。絵はとても可愛らしいのですが、キャラたちにそつがなさすぎて、今ひとつお話にのめりこめない感じ。特に柚が、設定に反して優等生すぎるような気が。なお、全般的に百合テイストはかなり薄いのですが、第4話での棗(なつめ)と蓮(れん)の友情百合はよかったです。

絵はとてもよかったです

キャラの可愛らしさといい、背景の美しさといい、すばらしかったです。和風伝奇っぽい凄味を見せるコマ(第3話)のコワさもよかった。

キャラがなんだか平板

それぞれのキャラについて、「どんくさいけど一生懸命」「不器用だが実は優しいクールビューティ」「可愛いが内面したたかな美少女」といった設定があるんだろうなとは思うんですよ。でも、実際には、各キャラの性格に凹凸がなさすぎるというか、そつなくまとまりすぎていて、今ひとつこちらの胸にひびいてこない感じ。特に、どんくさいはずの柚があまりにもいい子ちゃんで、ミスのフォローも実は完璧なところがピンと来ませんでした。ほっこりしたくて読んでいるのに、仲居さんが全員ピッカピカの人工物めいていてうまくくつろげない感じというか。ううむ。

あと、皐がのっけから日本語を間違えているところも気になりました。あれでは皐が「趣味」と「趣向」の区別もつかない頭の悪いお子様に見えてしまうのでは。たぶん校正ミスだとは思うのですが、キャラの第一印象にかかわる大切なコマだけに、ひどく残念でした。

百合テイストについて

舞台が温泉宿ということで、やたらと女のコ同士の入浴シーンが多いのですが、百合百合しいというよりいささかあざとい印象を受けました。正直、恋愛色の少なさ・心情面での盛り上がりの薄さをハダカでカバーしている感じかなあ。それでも第4話での棗と蓮の友情カップルなどは光っていた(ハグとか心のつながりとか、よかったです)のですが、肝心の主人公たる柚と皐のカップリングに今ひとつ説得力がないのが残念。お互いを意識しているような描写がひとつもない段階で唐突にお風呂で微エロな絡みをやらせるとか、「二人きりで」お出かけだと喜ばせてみせるとか、なんだか展開がちぐはぐなんですよ、このカップル。百合漫画だから脈絡なくつがって当然、みたいなんじゃなくて、心情面(友情でもなんでも)での布石を打った上で満を持してデートというのが見たかったです、自分としては。

まとめ

絵は綺麗だし、キャラクタもみんないい子です。にもかかわらず、読んでいて今ひとつほっこりできなかったのが残念。おそらく、キャラが出来杉ちゃんばかりに見えてしまってあまり人間味が(いや、狐なんですけど)感じられなかったのと、柚と皐の唐突なカップリング展開に脳みそがついていかなかったのがネックになってしまったのだと思います。とりあえず2巻に期待したいです。