石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

百合アンソロジー『つぼみ VOL.5』(芳文社)感想

つぼみ VOL.5 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

つぼみ VOL.5 (まんがタイムKRコミックス GLシリーズ)

作風の幅広さが完全復活

いやあ嬉しい。前号では中高生主体の学園ものの比率が妙に増えていて、このままありがちな思春期美化アンソロになってしまうのかと危惧していたんですが、まったくの杞憂でしたね。このVOL.5では、『つぼみ』の最大の魅力である守備範囲の広さが完全復活。SFからレトロモダンまでの多岐に渡る物語を、年齢層も立場もきわめて多様なキャラクタがそれぞれ演じるというユニークな1冊になっています。絵柄や演出、作品のトーンなどもバラエティ豊かで、楽しく読みました。

巻末の「作家コメント」コーナー(p. 336)でサトウナンキさんが、

いろんな作風の方と同じモチーフで一つの本に並ぶというのは、とても刺激的で面白い経験でした。

とおっしゃっていますが、読み手としても同じことを強く思います。「百合」というモチーフだけでつながったこれだけ多彩な作品を一挙に楽しめるというのは、すばらしくエキサイティングかつ贅沢な体験でした。

今回よかった作品など

1. 「エビスさんとホテイさん」(きづきあきら+サトウナンキ)

今回が最終回です。心理描写がすげえよかった。ホテイさんの告白といい、それに対するエビスさんのさりげない返事といい、鮮やかなラストといい、すばらしすぎる。何度も読み返して「くーっ」と悶えました。ふたりの表情もいいんですよ、特にp. 34〜35とか。あの悪魔のような(というと語弊があるかもですが)エビス姉の着地点にも納得。

2. 「しまいずむ」(吉富昭仁)

「その8 つるつるのこころ」と「その9 ちょうひなまつり」の2編が収録されています。前者は、甘酸っぱい台詞とマヌケな絵づらのギャップがおかしすぎて、ヘンタイ姉ズの本領ここにありといった感じ。後者は姉ズの画力にひたすら笑いました。いつもながら好きだわ、この漫画。百合の裾野を別の意味で広げまくる傑作というか怪作だと思います。

3. 「キャンディ」(鈴木有布子)

弓道部の女子高生が先輩に告白される物語。あれだけ「思春期百合路線ヤダ」とか言っといてこれは誉めるんかい! と思われそうですが、面白いんですよこの作品。まず、メインキャラ3人のキャラ立てがくっきりしていて、ただの「先輩役」「友人役」みたいな役割分担にとどまらないところがステキ。さらに、五感に訴えかけてくる演出がすばらしくてねー。大音量の蝉時雨、夏の暑い空気、キャンディの甘さ、恥ずかしさで染まる首筋の赤さ、そして思いがけず触れた唇の感触等々の描写に心を揺さぶられまくりました。さわやかなのにとろりと甘いラストの官能もよかった。

4. 「タンデムLOVER」(カサハラテツロー)

タンデマイン(2人乗りの戦闘ロボ)のパイロット養成学校での百合物語です。今回「つぼみVOL.5」を買って最初にパッと開いたのがこの作品のページで、躍動するタンデマインの姿に「おおおおお!」と一瞬で血湧き肉躍りました。百合でこれをやってくれるというのがすごく嬉しいなあ。反発しつつも惹かれ合うパイロット・シマとコダのメインカップルも可愛らしくてよかったです。2人で力を合わせて操縦するロボだというのがミソですよねやっぱり。

5. 表紙・裏表紙(黒星紅白)

学校の美術準備室(もしくは美術室?)の雰囲気がいいし、何より、表紙と裏表紙で一種の二コマ漫画になっているところが楽しいです。キュートで色っぽくて、かつ遊び心も満点な構成だなあと思いました。裏表紙で何が起こっているのかは伏せておきますので、気になる方は本屋さんでご確認を。

まとめ

つくづく『つぼみ』ってすごいと思うんですよ。VOL.3でちょっと硬直した価値観(『結婚=赤ちゃんを作ること』とか『同性同士=アブノーマル』とか)が目立って大味だなあと思ったらVOL.4ではそんなカラーは一掃されているし、VOL.4で一旦学園もの寄りになったかと思ったら、VOL.5ではまたこんなにも多彩な作品を打ち出してくるし。それでいて学園ものにも手を抜かないし。したたかでフットワークの軽い百合アンソロとして、今後もとても期待しています。