石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『蒼穹のカルマ(4)』(橘公司、富士見書房)感想

蒼穹のカルマ4 (富士見ファンタジア文庫)

蒼穹のカルマ4 (富士見ファンタジア文庫)

相変わらず破天荒なおもしろさ。百合方面も濃厚です

姪の在紗を百合百合しく溺愛する最強ヒロイン・鷹崎駆真の活躍を描くライトノベル第4巻。表紙を見ただけで既に爆笑、女子高生(3巻)の次は魔王様ですよこの人は!! そう、1巻以来完璧に無視されていたアステナの願い「レーベンシュアイツの魔王征伐」が、ここに至ってまさかの実現を見せるんです。それでいてメインの物語もきちんと進んでいるし、百合展開も今回は無しかと思わせておいてえっらく濃いのが出てくるしで、つくづく読者の予想をいい意味で裏切り続けるシリーズだと思います。冴え渡るギャグと暴走する愛、そして緻密に織られたストーリーと、相変わらず隙のない面白さを誇る1冊でした。

魔王征伐について

白状すると、3巻まで読んだ時点では、駆真のレーベンシュアイツ行きは正直実現しないだろうと思ってたんですよ。その予想をくつがえしての、まさかの異世界ファンタジー展開。これにはびっくり。この作品らしく、そうなるに至るまでの布石も練りに練られていますし(各章の章題を見るだけで笑えます)、いざ異世界に渡ってからの一連のギャグも痛快でした。「勇者カルマが悪を討つ」みたいなありがちな流れにはまったくならないどころか、誰もが知っていながら目をつぶっている「RPGのしょうもなさ」を徹底的におちょくり倒すところがステキ。また、これが単なる独立したスピンオフ話ではなく、実は蒼穹園でのとある出来事とがっちりリンクしているところも興味深かったです。

百合部分について

ある事情から、今回の駆真と在紗はお話のかなりの部分で別行動をとることになります。鷹崎家で一緒に過ごす時もこれまでほど強烈なラブデレ描写は見受けられず、この巻は百合ギャグ少なめで行くのかなと思ったんですよ。が、それはとんでもない間違いでした。というのは、後半に、マゾヒズムとフェティシズムに彩られた、激しくエロティックなシークエンスが出てくるからです。少しだけ引用してみると、

「ふふ……格好悪いわね、ねえさま。ほらほらっ、反撃してみてよ……!」

可愛らしい声でそう叫びながら、在紗がうつ伏せに倒れ込んだ駆真の臀部を蹴りまくる。

「あっ、あっ、あっ、あ――ッ」

駆真は不思議と紅潮する頬を隠すこともせず、どこか甘い声を出した。何故だろうか、在紗に蹴られていると思うとあまり痛みを感じなかった。

「なぁに、ねえさまったら蹴られて喜んでるの? ふふっ、変態さんなんだぁ」

――もう理性とかいらないんじゃないかな。うん、自分に素直になろうよ駆真。

駆真はかたかたと歯を鳴らしながら、ミルクを求める赤子のようにゆっくりと口を開き、そこから必要以上に唾液に濡れた舌を――

とまあ、こんな感じ(pp. 237 - 239)。何ですかこの背筋を羽毛で撫で上げるかのような淫靡さは。いいぞもっとやれ。

『蒼穹のカルマ』シリーズの魅力のひとつは、独特の「ツッコミ力」にあると思うんです。オタ向けフィクションのお約束をことごとく笑い飛ばすツッコミ力ね。その割には在紗の設定だけは「清楚で可憐な美少女」と無難すぎるのではと思っていたのですが、この巻では思いも寄らない方向からその殻が破られていて、面白かったです。同時に駆真の方もただのロリコンではなく、もっとグレードアップした何か別のものにクラスチェンジしているところがポイント。さらに、これだけえっちな場面を盛り込みつつ下品にも猥雑にもならず、あくまで軽妙なアクションコメディという路線を崩さないところも楽しかったです。

本筋について

レーベンシュアイツでロールプレイングしているからといって、本筋は少しも停滞していません。前々からの複数の謎への答えがいい感じでチラ見せされていて、続きが気になってうずうずします。思うにこのシリーズ、突然学園ラブコメになってみたり異世界ファンタジーしてみたりと一見場当たり的なようでいて、実は相当緻密に計算されつくした作品なのではないでしょうか。2巻に出てきた「そうきゅん」のぬいぐるみまでが意外な役目を負うところには、特にびっくりさせられました。

まとめ

今回も文句なしの面白さでした。好っきだー、このシリーズ。次は何をやらかしてくれるのか、とても楽しみです。