石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

PCゲーム『素晴らしき日々〜不連続存在〜』(ケロQ)レビュー

素晴らしき日々 ~不連続存在~ 特装初回版素晴らしき日々 ~不連続存在~ 特装初回版

ケロQ 2010-03-26
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とても面白かったです。

結論を先に言うと、とても面白かったです。簡潔で力強いテーマ、多層的なシナリオ、尻上がりに疾走感を増していくストーリー、そしてサイコホラー的な怖さなど、どれもとてもよかった。ラブラブ和姦と性暴力との描き分けも興味深かったです。ただし、文章がかなり冗長なところ、辻褄合わせのためのご都合主義がやや目立つこと、百合部分の描写が荒いことなどはマイナスポイント。異性愛規範が無邪気に強調されているところも今ひとつかな。トータルすると、あたしにとっては5段階評価で3.5〜4ぐらいの位置に落ち着くゲームです。

よかったところ

まず、テーマ! 「幸福に生きよ!」というテーマがダイレクトに胸に響きまくるところがよかった! これは『終ノ空』でシナリオのすかぢさんが言われた「現実がつらいのに、何で物語の中でまでつらい思いをしなければならないんだ」という問いへの答えなのだそうですが、『終ノ空』未プレイのあたしにもしっかと伝わりましたよ。

このテーマを最大限に生かしている多層的シナリオもよかったです。群像劇としての面白さもてんこ盛りですし、各キャラに用意されているハッピーエンディングがただの「気休め」ではないと気づかされる仕掛けもナイス。最後まで読者を引っ張っていく怖さと緊迫感も特筆もん。特に間宮卓司の章の狂気の表現はコワかったなあ。

ヘテロセックスの描き方がステレオタイプを脱しているところも、興味深いと思いました。総じてラブララブ和姦の尺は短め、性暴力の尺は長めなゲームではありますが、それでいて性暴力を絶対に肯定しないシナリオなんですよこれ。暴力的な性描写をしばらく続けた後で「キモい人の電波な妄想でした」「現実でしたが、それゆえにこんな後味悪い結果に」などの後味悪いオチが容赦なくつきつけられるという構造になっているんです。身勝手な性的行為をここまで徹底して「悪趣味なもの」「他人に最悪の傷を与えるもの」として描写するというエロゲーは初めて見た気がします。反面、ラブラブヘテロ和姦の方は、女のコの反応がとにかく可愛くてねえ。「実況厨」とか「い、今やめたら……お前を呪い殺すわ……」とか、どこかユーモラスなところがかえってリアリスティックでいい感じです。陰惨な展開も多いストーリーの中、こうした楽しそうなセックスの描写は、まるで一服の清涼剤みたいでした。この「合意のもとでのセックス」と「性暴力」との差のつけ方が、非常に面白かったです。

今いちだったところ

まず、時々文章が冗長になるところ。特に、ギャルゲー風の日常会話の誰得な長ったらしさには参りました。メインシナリオのすかぢ氏が「オフィシャルアートワークス」の中で「ボク自身が長いシナリオ嫌い」と語っておられるのを発見したときには、何かのギャグかと思いましたよ。ダレ場のテキストを刈り込めば、まだまだ短くできるシナリオだと思います。

物語後半でご都合主義的な部分が増えていくところも残念。複雑なシナリオだけに、ある程度は仕方がないことだとは思うんですが。

また、とある章でさんざん男性同性愛を悪く言うキャラが、近親姦の場面でのんきに

愛に制限なんて糞喰らえだ……。
人を好きになるのにルールなんて糞喰らえだ。

とか言ってるところも興ざめ。この章自体は好きなので、ここだけ玉に瑕といった感じでした。

百合描写について

全6章のうち、第1章(1巡目)と第3章に計3種の百合エンドがあります。どれも全部ハッピーエンドという位置づけで、ラブいです。ただし女性同士のセックス描写は概して大味で、「ノンケの妄想臭がする」「こんな大雑把な触り方で処女がイクか!?」「CG少ねえ」などと突っ込んでしまったのも事実。あと、場面によってはヘテロノーマティヴィティー(異性愛規範性)がかなり露骨に打ち出されているところも気になります。あたしは由岐というキャラクタがとても好きなんですが、第1章1巡目の彼女は女性同士の関係を「普通じゃない」「普通引く」などと称しまくる視野狭窄女。これは悲しかったです。

ちなみに1章1巡目に関しては、シナリオ自体にかなり難があるかと。ここでは由岐は単なる駄目エロゲーの鈍感ハーレム主人公(他の章ではあんなに魅力的なのに!)、鏡と司とざくろはまるで『アオイシロ』のモブの皆さんのようなどうでもいいお色気担当。冗漫でオタ妄想めいたガールズトークも、読んでいて苦痛でした。2巡目になるとうってかわって面白くなるので「この差は何なんだろう」と思っていたら、1巡目だけ別のライターさんが書いてるんですねこれ。これからプレイされる方には、1章序盤でめげずにその先まで読み続けられることをおすすめします。そこを越えれば、急速に面白くなるゲームですから。

まとめ

ヘテロゲーとしては良作、百合ゲー/レズゲーとしては「悪くはないけどもう少しがんばりましょう」といったところでしょうか。百合メインな作品ではないため、女のコ同士のあれこれだけが目当ての方には向かないかもですが、それでもともかくまず1本のゲームとして面白かったです。ちなみに特装初回版封入の「梱橋りこ最新作草案」によると、次回作にも「百合に発展しそうなキャラ達はいます!」とのことなので、そちらにも期待。