石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『執事少女とお嬢様(1)』(真田一輝、芳文社)感想

執事少女とお嬢様 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

執事少女とお嬢様 (1) (まんがタイムKRコミックス フォワードシリーズ)

説明台詞過多でぎくしゃくしすぎ。女同士の関係も軽視しすぎ。

百合4コマ『落花流水』で大人気な真田一輝さんの、非4コマなラブコメです。内容はタイトル通り、少女が執事としてお嬢様に仕えるというもの。残念ながら、あたしにはあまり合わない作品でした。理由は「導入部がぎくしゃくしすぎ」「説明台詞多すぎ」「詰め込みすぎで未消化」「そもそも『恋愛』ではない」「『女の子同士はノーカン』パターン」など。以下、具体的に説明します。

導入部と説明台詞について

説明台詞が多すぎです。特に第1話では、キャラクタの性格や置かれた状況などがひたすら文字で説明されまくるばかりで、ツカミが非常に弱いと思います。主人公の魅力が伝わるようなエピソードがひとつもないうちから、他キャラの台詞で「あなたのような子を手放すのは惜しい」云々と形容されても、読んでる側としては「『あなたのような』っていったいどんなよ?」としか思えません。いくら「少女が少女の執事になる」という設定ありきの物語だとしても、まず執事になるまでの話運びが杜撰すぎ。

「恋愛」ではなく、「女の子同士はノーカン」

主人公「ひなた」はお嬢様の「沙綺」に恋心を抱いているわけではなく、執事の仕事に役立てるために「好きになる」努力をしているだけです。そうは言っても多少の心の揺れがあったりはするんですが、沙綺と偶然キスした後、自ら「女の子同士だしノーカンってことで」などと説明しているところが致命的。自発的な恋愛感情もない上、主人公自ら女の子同士の関係を男女のそれより軽いものと位置づけているようでは、メインカップルの百合な盛り上がりに期待するのは難しいかと。

漂う消化不良感

ぎくしゃくしているのは導入部だけかと思ったら、1冊まるごとそうでした。特に、百合ものとしての焦点が今ひとつ定まらないところがいただけません。この作品では、前述のようにメインカップルの結びつきがぼやけている反面、

  • ひなたの親友「麻衣」からひなたへの想い
  • 沙綺から姉「沙織」への想い
  • 沙綺の婚約者「空子」から沙綺への想い
  • 沙綺とその女執事の関係

などはわりかし百合百合しかったりします。でも、これらはあくまで散発的に描かれるのみなので、どこに力点を置いて読んだらいいのかわかりにくいんです。これならいっそひなたと沙綺を100パーセントノンケにして、周りのドタバタをもっと描き込んだ方がまだ面白かったかも?

まとめ

「少女の男装/執事姿萌えー」「お嬢様とキスしちゃったりするとなお萌えー」のようなシチュエーション萌えだけで楽しめる方にとっては、じゅうぶん面白い作品なのかもしれません。しかし1編の漫画としてこの作品を見た場合、話運びのぎこちなさと説明台詞の多さがどうしても気になってしまいます。また、百合ものとして読むのであれば、ひなたの恋心の薄さや、「女の子同士はノーカン」という考え方などがマイナスかと。結局、百合漫画だと思って読んだあたしの負けで、これは「あくまで異性装萌え漫画、ただしサブキャラには百合な人あり」ととらえておくべき作品なのかもしれません。2巻以降でもう少し流れが変わってくれると嬉しいんですが。