石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

『ラブフリッカー』(竹宮ジン、一迅社)感想

ラブフリッカー (IDコミックス) (IDコミックス 百合姫コミックス)

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計5カップルの甘やかな恋模様

4月に白泉社から『Girlish Sweetアタシノ彼女』 が出たばかりの竹宮ジンさんの新刊です。恋の歓喜の描写やホモフォビアへの切り返し方が鮮やかで、いいぞいいぞと思いながら読みました。1話ごとに主人公を交代させつつ、俯瞰すると全部のお話がつながっているという構造は『Girlish〜』と同じ。ただし、掲載誌(コミック百合姫)のカラーのためか、こちらの方がよりピュアピュア甘甘な雰囲気が強いです。その分、絵柄のクセの強さがより目立っているような印象も受けます。ひょっとしたらそのへんで、人によっては合う合わないが分かれるかも。

恋の歓喜とホモフォビアの描き方について

まず、女のコ同士の恋の喜びがくっきりはっきり描き出されているところ。代表的なのが「Delicious Time」の主人公の、こんな台詞です。

なんじゃこのかわゆい生き物は…!!?? CGか? CGなのか??

ヤバイ…すっげー嬉しいっつーか…いいの? この可愛いの全部あたしの?

いちレズビアンとして、どちらもわかりすぎるほどわかる感じ。特に後者は、一人称が「あたし」なところがポイント。台詞以外では、描き下ろし作品「SWEET SWEET SWEET」のラストなんかもよかったです。あの涙。くーっ。

他には、同性愛へのありがちな偏見をいったん提示しておいてから、キャラクタにきっちりとそれらを否定させていくところもよかったです。たとえば、「あたしのかわいいヒト」の主人公は、脇キャラの差別的な発言に対し、独白でこんな風に切り返しています。

いや ありえるし怖くも無いし 誰かれ構わず襲うかっつーの

常識ってなに? あたし別に「ごっこ」なんてしてないし

嬉しいなー。作中でここまで書いてくれれば、レビューでいちいち「なんじゃあこの偏見はー!?」とか怒らなくて済むし。

ホモフォビックな表現を含むBL/百合作品への擁護として、「現実にホモフォビアは存在するんだから、それを描いて何が悪い」と主張する人をときどき見かけます。でも問題は、ホモフォビアそのものを登場させるかさせないかではなく、作品の中でそれをどのようなものとして位置づけるかだとあたしは考えています。同性愛への蔑視や嘲笑を「当然のこと・誰からもとがめられないこと」ととらえるのか、「バッカじゃねーのそんなの!?」と描くかで、作品の放つメッセージは天と地ほども変わってくるでしょう。そして『ラブフリッカー』は、間違いなく後者です。この作品の中ではホモフォビアははっきりと「間違ったこと・筋が通らないこと」として表現されていて、そこがとても嬉しかったです。

雰囲気と絵柄について

全体的に『Girlish Sweetアタシノ彼女』より低年齢層向けな感じです。キャラの社会人率が減り(というか1人しかいません)、セックスも登場せず、痛みやダークさも控えめ。その分、いかにも百合姫風なピュアピュア甘甘なファーストラブ風味が強化されています。個人的には、このキツめの絵柄にはもう少しビターなお話の方が合うような気がするんですが、どうでしょう。

その他

相変わらず「印象的な一瞬」を切り取るのがうまい作家さんだなあと思いました。パン屋での「あーん」の場面とか、身長差カップルのキスシーンとか、わざと画面からはみ出させてみせた「大人のちゅー」とか。

まとめ

キュンキュンくるような「恋の喜び」がまぶしい百合短編集です。ホモフォビアの扱いもまっとうだし、見せ場のインパクトもナイス。ただ、シャープでクセの強い絵柄が、このウブくて甘い青春路線にはちょいとオーバースペックな印象もないではないです。できたらもう少しオトナな話や、ビタースウィート寄りの話も見たかったと思いました。もちろん掲載誌の都合もあるでしょうし、そこまで望むのは贅沢かもしれませんが。