石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

『蒼穹のカルマ(5)』(橘公司、富士見書房)感想

蒼穹のカルマ5 (富士見ファンタジア文庫)

蒼穹のカルマ5 (富士見ファンタジア文庫)

緻密で熱い、節目の巻

姪の「在紗」を百合百合しく溺愛する主人公「鷹崎駆真」が活躍するアクションファンタジー、第5巻。ハイスクール編(3巻)、魔界編(4巻)と続いて、今度はまさかの魔法少女編です。しかしイロモノと侮ることなかれ、これはいわば「第1部・完」に相当する重要な1冊であり、構成の巧みさと演出の熱さにかけては、これまでのどの巻にも劣りません。百合ものとしても、謹んで満点をさし上げたいです。駆真と在紗の関係の変化や、クライマックスでのやりとりがいいんですよホント。ギャグのキレもすばらしかったし、本っ当に好きだわ、このシリーズ。

まさかの魔法少女編です。

あのクールビューティー(な、はず)の駆真が、今回は“12歳の”魔法少女キャンディカルマとして大活躍。しかも変身時には「一昔前のアイドルみたいな」(p.
171)ポーズとともに、

キャンキャンキャンディ☆ロリぽっぷん! みるきータッチで、スウィートちぇ~んじっ!

と叫ぶ(p. 7)というたいへんな事態となっています。「どうしてこうなった」(あとがきより)とも思ってしまいますよ、そりゃあ。

でもこの5巻は、ただのいきあたりばったりな魔法少女パロディなんかではないんです。まず駆真が「どうしてこうなった」のかは、ある重要な伏線の回収に密接に関わっています。さらに、魔界編での1回きりのアイテムかとも思われた折れた出刃包丁こと聖剣ヴェクサシオン、そして小学校のミスコン以外では今ひとつ影が薄かったゆらゆら姉妹など、意外な要素がかっちりと組み合わさってこの展開がもたらされているんです。結果、「どうしようもなくアホで可笑しいのに、おそろしく説得力がある」という強烈な1冊に。ええホント、侮れませんよこの巻は。

百合ものとしても満点

駆真の鼻血ギャグをはじめとする変態ネタも、いつも通りに面白いんですよ。でも、それにも増して百合としてキラッキラ輝いているシークエンスが多かったです。代表的なのが、クライマックスでの駆真のド直球な台詞。さらに、これまで「守り、守られる」という立場だった駆真と在紗の関係が、あることを機に大きく変化していくところもよかった。言葉だけでなく、ボディーランゲージでの心の通じ合いが描かれているところも。エピローグでのヒキも興味深く、今後の展開が楽しみです。

ギャグのキレもよかったです

特に騎士団の女性陣がいい味出してました。不憫な魔王様も。もうひとつ付け加えるなら、小説本編だけでなく表紙と帯の遊び心も最高でしたね。しっぽまで十勝産小豆のあんこが詰まったタイヤキのごとく、隅から隅まで良質の「笑い」を詰め込みまくった力作だと思います。

まとめ

緻密で吸引力のある物語構成といい、百合ネタの熱さといい、笑いの散りばめ具合といい、どこまでも非の打ち所のない1冊でした。実は、今日この本をレビューする予定はなかったんですよ。Amazonから届いたのを「どれ、表紙だけ見ておこうか」と封を切ったが最後、「わははははなんだこの帯はー!?」「く、口絵も相変わらずすごい……」「ちょっとだけ読んじゃおう」「な、なんで12歳?」とぐいぐいと引っ張り込まれてしまい、気づけば全部読み終わってニッコニコしている自分がいました。で、この面白さを伝えずにいられようか! と夢中でレビューまで書いてしまいました。めちゃくちゃおすすめです。