石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『フィダンツァートのためいき』(田中琳、一迅社)感想

フィダンツァートのためいき (IDコミックス 百合姫コミックス)

フィダンツァートのためいき (IDコミックス 百合姫コミックス)

絵柄は華やか、でも内容薄し。ホモフォビアもあり

私立女子校を舞台とする百合短編集。きらびやかな絵柄と、女子校を一種の聖域視するスタンスが、一部の層にはウケるんだろうなとは思います。ライトなエロ要素にも、喜ぶ人は多いでしょう。でも、残念ながらあたしには合いませんでした。ストーリーが予定調和すぎるところや、キスやセックスの描き方に疑問が残ること、同性愛を「異常」「非生産的」とする価値観が当然視されているところなどが、その原因です。

話が予定調和すぎ

「内気な少女がモジモジしているだけで、突然相手から熱烈に告白される」パターン多すぎ。予定調和すぎるというか、男オタ向け作品における「空から女の子が降ってくる」設定にもひけをとらない都合の良さですな。

ラブシーン、雑すぎ

第1話から第3話にかけて、カップルは変われど「突然強引にキス→押し倒して乳触る→なしくずしにセックスし両想いに」という展開ばかり繰り返されるのは、ひょっとして何かのギャグですか。あまりにワンパターンなところがまず気になりますし、同意なしにいきなり強引にってところはもっとひっかかります。「結果的に相手が喜んだからいいだろう」みたいな雑な雰囲気が、さらに嫌。ひょっとしたらやおいやBLにおける「強姦されてハッピーエンド」パターンが百合にまで浸食しつつあるのかもしれませんが、少なくともあたしには合わなかったことは確か。

「生物としては異常」?

以下、第7話「tendazione 誘惑」に登場する「小説」の一節(p. 120)です。

『女同士で愛し合うことは異常なことだ。少なくとも生物としては異常なのだ
この非生産的な行為からなにが生み出されるというのだろう…

キャラのひとりが書いて「文学界で権威ある」賞を獲った作品という設定なんですが、作中で誰ひとりとしてこんな似非科学(何がどう似非なのかはこちらをご覧ください)に立脚した差別的表現に疑問を感じていないところにドン引き。それどころか「どうしたらこんな小説が書けるのか教えて欲しいっっ」とか言ってもてはやされてる始末ですよ。合わない合わないと思っていたら、世界観からしてこの程度な作品だったわけですね。なるほどねえ。

以下、あとがき(p. 147)より引用です。

自分の場合、まず百合を描く時には必ず、「禁忌」を描くのか「追求愛」を描くのかを検討します。
今回のフィダンツァートでは、敢えてタブーには踏み込まず「追求愛」のみを追い掛けてみました。
同性を愛する事に対しての後ろめたさは思いきって廃棄して当たり前のように乙女たちが愛し合う世界。
そんな世界が描きたかった。

描けてないと思いますよ。「tendazione 誘惑」を収録した時点で、ただの呑気な「禁断萌え」漫画でしょ。

まとめ

ストーリーはひねりに欠けるし、ラブシーンも今ひとつだし、古くっさいホモフォビアは野放しだしで、わたくしには徹底して合わない作品でした。せめてあの「生物としては異常」云々のクソ失礼な記述がなかったら「こういう商売もありよね」と受け取ることもできたんですが。残念。