石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『此花亭奇譚(2)』(天野咲哉、一迅社)感想

此花亭奇譚 2 (IDコミックス 百合姫コミックス)

此花亭奇譚 2 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ノスタルジックな微百合ファンタジー

狐のお宿「此花亭」を舞台とする和風ファンタジー百合漫画の第2巻。ここまで読んできてうっすらとわかってきたんですけど、この作品は「百合だ!」と構えて読むべきものではないのかも。お話のメイン要素はあくまでこの世界のノスタルジックな空気と、キャラたちの心なごむやりとりであって、百合はかすかに香るフレーバーととらえておいた方が正確そうです。事実、その視点で1巻を読み返してみたら、初回レビュー時よりずっと楽しめましたしね。かつての自分の読み方は浅すぎた、と反省しました。

2巻のよかったところは、何と言っても夏の空気。怪談や夏祭り、川遊びなどに、ちょっと鄙びた夏の風情があふれていて、楽しめました。背景の草一本にいたるまできっちりと「日本の夏」しているところが心憎いです。美しさ・懐かしさだけでなく、どこかに土くさい「怖さ」がしのばせてあるところもたまりません。こんな町に長逗留してのんびり湯治したいです。ときどきちょっとだけ怖いことも起こるかもですが、それもまた一興ということで。

百合部分については、今回はひとり悶々としている蓮が白眉かな。いい意味でオンナノコオンナノコしていて、可愛かったです。

あえて難点を挙げるとしたら、「キャラの見分けがつきにくい」という点ぐらいでしょうか。あとは、「お盆で死者が帰って行くときは馬じゃなくて牛に乗るんじゃ……?」とか。ただし、なにぶん異世界ファンタジーですから、この世界ではこうなのだと思えばじゅうぶん納得可能ではありますが。

まとめ

どこか懐かしい和風世界を描いたファンタジー。読んでいると心のコリがゆるゆるとほぐれていくのがわかります。直球で百合ん百合んな物語をお求めの方には向かないかもですが、何か心なごむ漫画でリラックスしたい方にはすごくおすすめ。