石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ピュア百合アンソロジー ひらり、Vol.2』(新書館)感想

ピュア百合アンソロジー ひらり、 Vol.2

ピュア百合アンソロジー ひらり、 Vol.2

  • 作者: 高嶋ひろみ,前田とも,仙石寛子,湖西晶,TONO,石堂くるみ,朝丘みなぎ,スカーレット ベリ子,藤沢誠,未幡,榊花月,平尾アウリ,桑田乃梨子,三嶋くるみ,ささだあすか
  • 出版社/メーカー: 新書館
  • 発売日: 2010/08/25
  • メディア: コミック
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小さくまとまりつつも、「思春期ピュア百合」枠内で健闘

新書館の百合アンソロの第2巻です。ほぼ全部が10代の学生ものとあって、残念ながらVol.1より一回り小さくまとまってしまっている印象。ただし、それでも「思春期のピュアピュア*1百合」という枠の中では比較的よく健闘している方だと思います。学生ものばかりとは言え、個々の作品の質は上々で、たのしく読めました。

10代学園もの比率がアップ

Vol.1ではまだ作家と編集者の話(仙石寛子『日向で咲いて』)やOL同士の話(茉崎ミユキ『檸檬の』)が含まれていた「ひらり、」ですが、今回は中高生主体のお話ばかりです。みごとなまでに制服百合&女子校百合ばっかし。大学生やアイドルが主人公の作品もあることはあるのですが、「10代(か、せいぜいハタチ)のせいぜいキスどまりの関係」という枠内にあるという点は変わりません。

小特集のテーマが「部活」だったということもあるのでしょうが、この保守色になんとなく、映画『ブルース・ブラザース』のこの場面を思い出したりしました。

田舎町の酒場でロック("Gimme Some Lovin")を演奏したとたん、怒った客にビール瓶を雨あられと投げつけられ、仕方なく古典的なウエスタン・ソング「ローハイド」を歌ってみせると観客大喜び、という有名な場面です。

ひょっとしたら百合業界も、「思春期ピュアピュア百合じゃないとビール瓶が飛んでくる」「ベタでも何でも思春期路線にしとけば観客大喜び」という状況にあるのかもな、と思ったりしました。少なくとも、制服少女同士のリリカルな恋模様だけがツボな方にとっては、Vol.1よりVol.2の方がモエモエだってことになるんだろうなあ。

でも、切り口はかなり新鮮。

中高生もの主体とは言え、浮き世離れした全寮制お嬢様学校だの「憧れのお姉さま」だのといったテンプレに寄りかかった漫画は少ないです。むしろ鮮烈な見せ場を盛り込んだ作品が多く、なんだかんだ言って楽しく読みました。特によかったのは、このへん。

「あさがおと加瀬さん。」(高嶋ひろみ)

躍動感あふれる絵柄がすばらしかったです。特に水道のところのシークエンスとか、タイム測定の1コマとか。

「指先の声」(前田とも)

友情止まりかと思わせておいて、ラスト5ページで急転直下していくところがたまりません。特に最後のページには見とれまくりました。Vol.1掲載の「影慕い」もそうでしたが、インパクトあふれるラストシーン作りが非常にうまい描き手さんだと思います。

「ほんのともだち」(ささだあすか)

これもオチがよかったです。「さっちゃん」という名前が伏線になっているところ、そして最後の会話の思い切りのよさとほほえましさが最高。

「七海先輩とありさちゃん」(石堂くるみ)

2回出てくる「察しろ」という台詞の場面にぐっときました。ただの「あこがれの先輩もの」かと思わせておいて、まったく違う方向に疾走していくストーリーも。構成の妙とは、こういうことを言うのでしょうね。ガチで恋人同士なカップルが出てくるところもよかった。貴重な大人キャラが、(出番少ないけど)重要な役割を果たしているところも。

まとめ

ほぼすべてが学生ものとあって、全体的に作品の幅がぐっと狭まっていることは残念。商業的には仕方がないのかな、とも思いますけれど。ただし個々の作品の質は高く、結論としては買ってよかったと思います。ComicリリィPLUSの休刊を見てもわかる通り、いくら思春期百合路線を堅持したところで、作品そのもののクオリティが低くては売れにくいと思うので、今後もぜひこの面白さを維持してほしいところです。

*1:ここで言う「ピュア」は、百合業界で好まれがちな「友情以上恋愛未満、でもたまにちょこっと恋愛方面に踏み出すかも」「セックスはせずキスどまり」みたいな路線を指します。