石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『青年のための読書クラブ(2)』(タカハシマコ[画]/桜庭一樹[原作]、ソフトバンククリエイティブ)感想

青年のための読書クラブ 2 (フレックスコミックス・フレア)

青年のための読書クラブ 2 (フレックスコミックス・フレア)

毒が弱まり、「エス」も少しだけ

桜庭一樹さんの小説『青年のための読書クラブ』のコミック版第2巻。「聖女マリアナ失踪事件」全部と、「一番星」の冒頭部分が収録されています。気のせいか、今回はタカハシマコ流の毒があまり感じられないような気が。ちなみに話の流れの都合上、「エス」な要素も、「一番星」の方にちらりと顔をのぞかせるのみです。

よく言えば堅実、悪く言えばちんまり

特に「聖女マリアナ失踪事件」の方に、漫画ならではの面白さが薄い感じ。原作を忠実に紙面に落とし込んであるとも受け取れますが、裏を返せば小さくまとまってしまっているとも言えます。残念ながら、「これなら原作を読んでおけば用が足りてしまうのでは」と感じてしまいました。
とは言え、年表や巨大マリアナ像を生かした画面構成にはひきつけられましたし、病床のミシェールに「虚無のような赤」を見せるというオリジナル演出も魅力的ではありました。にもかかわらず、そこを越えてあっと言わせてくれるものがほしかったと思ってしまうのは、ひょっとしたら1巻の「死ーね! 死ーね!」の場面の衝撃が忘れられないからかもしれません。人間、1度すごいものを見てしまうと、続きにはどうしてもそれと同等以上のものを期待してしまうのかも。贅沢だとは思うんですけどね。

「エス」な部分はごく少し

1巻に比べると、エスの要素も控えめです。「一番星」の序盤に、凛子と十五夜の関係が

「つまりは仮のエスであるのさ」
「いやいや十五夜のひたむきな情熱…気まぐれにふりむいた凛子に石を投げられてもなお慕う思いは隠された真のエスではないのか?」

と取り沙汰される場面(p. 140)があることはあります。が、この巻で描かれるのは十五夜が苺の香水で妖しく変貌するところまでで、「サムワン」とその不義をめぐる邪悪なあれこれについては、3巻までおあずけ。2巻を読み終えて「……物足りない……」と思ってしまったのは、実はこんなところにも理由があるのかも。

まとめ

ほぼ原作通りの展開であり、1巻に比べるとインパクトに欠ける印象を受けました。ただしこれは、たまたま物語の比較的おとなしやかな部分が収録されていることによるものかもしれません。あるいは、1巻の「死ーね! 死ーね!」の衝撃があまりにも大きすぎたせいかもしれません。いずれにせよ、3巻で描かれるであろう『緋文字』がらみのえぐい展開を楽しみに待ちたいと思います。あの痛々しい狂乱をタカハシマコさんがどのように料理されるのか、期待大です。