石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『レンアイ・女子課(1)』(森島明子、一迅社)感想

レンアイ・女子課 第1巻 (IDコミックス 百合姫コミックス)

レンアイ・女子課 第1巻 (IDコミックス 百合姫コミックス)

大人同士のオフィスラブ百合漫画

働く女子同士の恋愛を描く連作集。面白かったです! 収録作の中では、既刊『瑠璃色の夢』登場の蜜姫と香の後日譚がいちばん好きですが、その他のお話もみんなよかった。全話が大人同士の百合作品というだけでも貴重なのに、そこにさらに

  • 男子大好き肉食スイーツ女子をヒロインに据える(百合なのに)
  • 恋の始まりだけでなく終わりもがっつり描く(百合なのに)

等々のチャレンジャー魂がうかがえるところがポイント高いです。全体を貫く「永遠の愛」というテーマの見せ方・伝え方もていねいで、楽しく読みました。

蜜姫と香について

第3話「ハニー&マスタード2」は、あの腐れ縁の蜜姫と香がついにくっつく話。アップダウンの激しい展開が面白く、一気に読んでしまいました。女同士なればこその「女4人、出張先でダブルベッドの部屋2室」なんてシチュエーション設定が楽しかったです。遅めの初雪というモチーフが、この2人の関係をさりげなく象徴しているところも心憎かった。ほほえましくて、かつ熱いエンディングは、お見事のひとことです。

百合というとどうしても「ティーンエイジャーが恋愛や友情に悩んでる」という内容のものばかりが同工異曲的に生産されがちだと思います。でも、このシリーズはそこを越えたものを描き続けてくれていて、読んでいてほっとします。イノセントな10代少女が考える「永遠の愛」と、百戦錬磨のオトナにとっての「永遠の愛」は、やっぱりちょっと違ってますからね。後者だって読みたいわけですよ、オトナとしては。

チャレンジャー魂について

第1話の主人公・アリスが男を切らしたことのない恋愛体質で、好きになったら押し倒してでも誘惑する肉食系というところにまず度肝を抜かれました。しかもこの人、可愛い系の小柄女子なんですよ。こんな百合キャラ、見たことない! でも、そんなアリスが初めて女性に恋をし、いつも通りになし崩しで押し倒そうとして

しまった…そうか…
女子(しかも超マジメ)にこの手は通用しないの!?

という状況に陥るところ(p. 31)では、「わはははははは超わかる」とウケてしまいました。男と女じゃ、そりゃ基本的に戦略変えなきゃ駄目だよねえ。

また、「恋の始まり」「恋の成就」ばかりがクローズアップされがちな百合業界において、あえて「恋の終わり」を綿密に描いていくところにも驚かされました。具体的には第4話「透明な未来」がそれなんですが、これがまたカバー見返しの作者さんのお言葉通り、「女子同士のどこにでもある普通な恋愛模様」でねえ。痛くて苦くて、でもとても「普通」なあの展開に、「うわああああ」と床を転がったレズビアン/バイセクシュアル女子は少なくないのではないかと思います。

まとめると、ただ珍しいことをやって終わりではなく、根っこのところでガツンと共感を呼ぶところがすごく面白いんですよこの漫画。上記以外では、「キャラたちのウエディングドレス姿を、あえて非カプのボーイッシュ女子2名のコンビ女装でやる」というひねりのきかせ方も面白かったです。目を見張るような変化球を投げつつ、実は確実にストライクを取りに行くというこの姿勢、大好きです。

「永遠の愛」というテーマについて

お話のメイン舞台がブライダル会社のオフィスというところがまず興味深いですよね。女子好き女子というのは、「結婚=永遠の愛」というロマンティック・ラブ・イデオロギーからいわばはじき出された存在。ではそんな女子たちにとって「永遠の愛」とは何なのか、というテーマが全体をうまくまとめあげており、最後まで飽きさせません。なお、この問いに対しては第3話ラストのモノローグがひとつの答えを出しており、その深さにも唸らされました。

まとめ

読み応え十分の1冊でした。大人女子(余談ですが、最近『女子』の字面だけを見て『大人を女子と呼ぶのは変』などと不思議なことを言う人がいるみたいですね。そういう人は、『男子の本懐』のような古くからある日本語表現を知らないのでしょうか?)同士のガチ恋愛における「永遠の愛」というテーマを、クサくも夢見がちにもならずに追ってみせた力作だと思います。常にお話に新しさを盛り込み続けるサービス精神も嬉しかったです。というわけで、すごくおすすめ。