石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『背伸びして情熱』(仙石寛子、芳文社)、感想

背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

背伸びして情熱 (まんがタイムKRコミックス エールシリーズ)

やさしくてちょっと寂しい4コマ集

計9編の作品が収録された4コマ漫画集。読み切り作「お嫁に行っても」が百合と聞いて買ってみたのですが、何気ないやりとりの中に確かに百合の味わいがあり、面白かったです。その他の作品は年齢差もの、姉弟ものなどが主体。全体的な傾向は、「やさしい絵柄の、ちょっと寂しいお話」といったところ。一部にオチの弱さが見られるため、完成度で言うときのうレビューした『三日月の蜜』の方が上かとは思いますが、好きな1冊です。

「お嫁に行っても」について

ちょっとレトロな(昭和初期ぐらいでしょうか)女学校もの。卒業と共に結婚するポニーテール少女と、その友人のお下げ髪少女の会話劇です。ポニーテール少女が、美男子でもない相手との見合い結婚を淡々と受け入れていること、そしてお下げ髪少女も「隣の誠さん」といい感じであるらしいことが、2人のヘテロ性を表していると取って取れないことはありません。けれども、ポニテ少女の、

もし私が男ならあなたをお嫁に貰うけど

という台詞(p. 61)、そしてお下げ髪少女の、

さび しい
でも幸せになってね って
ちゃんとお祈りできる もの
幸せになってね!

と胸を詰まらせながら途切れ途切れに語るさま(pp. 63 - 64)は、これはやっぱり百合なんではないかと。ポニテ少女が桜の花びらをつまんで相手の顔に近づけ、

きれいね かわいいわ

と微笑む箇所(p. 62)も、本当は桜の話などではなかったのではないかと。

この感情が多分に友情寄りのものであったにせよ、おそらく戦争が迫りつつある時代背景において、これがこの時点での彼女たちの精一杯だったのではないでしょうか。ひょっとしたら、戦争なり老齢なりで夫を亡くした後に、彼女たちの(友情?)百合ストーリーの第2幕があったのかもしれません。たった6ページのかわいらしい会話劇に、さりげなくここまでの深みが持たせてあるあたりが、とても好きです。

その他の作品について

年の差ヘテロラブストーリー「背伸びして情熱」や、姉弟ものの「赤くない糸」は、面白いんですがオチがやや食い足りない印象を受けました。結末のすっきり感という点では、読み切り作品「十五夜に、お風呂」にとどめをさします。昔の怪異譚のような奇妙な味わいがあり、楽しめました。

まとめ

全体的な完成度や、百合方面の濃さという点では、きのうレビューした『三日月の蜜』の方に軍配が上がるかと。けれど、一見友情ものな「お嫁に行っても」の多層性はやはり買いたいし、やさしく寂しい雰囲気づくりのうまさも捨てがたいです。結論としては、「やっぱ、買ってよかった!」です。