石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『ひまわりさん』(菅野マナミ、メディアファクトリー)感想

ひまわりさん (MFコミックス アライブシリーズ)

ひまわりさん (MFコミックス アライブシリーズ)

やさしく懐かしく甘酸っぱい逸品

学校の真ん前に建っている、古くて小さな「ひまわり書店」を舞台とするハートウォーミングな物語。ラムネ菓子のような素朴な甘酸っぱさがたまらない作品です。どこかノスタルジックな背景と、キャラたちの生き生きした表情が、お話を上手に盛り上げていると思います。百合としてはクール眼鏡の女店主「ひまわりさん」と常連客「まつり」とのやりとりが見どころですが、まつりの妹「風子」もいい味出してます。ギャグ部分にも独特な面白みがあり、よかったです。

甘酸っぱさについて

この漫画ときたら、第1話冒頭からしてまつりがひまわりさんに向かって

好きだああああ!!

と叫ぶ(p. 3)という飛ばしっぷりです。なのに全然くどさがなく、むしろ抑制の効いた上品な百合作品との印象を受けました。なんというか、過度の「ほらほら百合ですよげへへ」感がない作品なんですよ。それでいて要所要所でキュンキュンくるという、まことに心憎いつくりになっています。
この洗練された甘酸っぱさを支えているのは、キャラクタたちの瑞々しい表情。キャラ同士の心のやりとりを表情で見せていくテクニックが、とにかくすばらしいんです。ひまわりさんのクール顔と照れ顔のギャップとか、まつりの花がほころぶような笑顔とか、一瞬でひまわりさんに心奪われた風子のたじろぎとか、どれも繊細な美しさに満ちていて、ハートをわしづかみにされました。いやー、いいもん読んだ。

ノスタルジーについて

お話全体を包み込む柔らかな懐かしさがどこから来るのかと思ったら、背景です。緻密に描き込まれた背景が、さりげなく郷愁をかもし出しているんです。具体的に言うならば、たとえば「ひまわり書店」の昭和の駄菓子屋みたいなたたずまいとか。黒電話とか。まつりの通う学校の、板張りの床(『フローリング』でもリノリウムでもないのよ!)とか。再開発でピカピカのビル群に作りかえられたりしていない、雑然とした人間くさい街並みとか。「背景」からはちょっとずれますが、まつりの制服が古典的セーラー服なところもうまいなと思いました。こうした陰の脇役たちが、お話の雰囲気づくりに大いに貢献していると思います。

ギャグについて

エキセントリックなゲストキャラ「七瀬」の、立て板に水のような語りの部分が面白かったです。予想もつかないような言い回しがビシバシ出てきて、ウケました。描き下ろし4コマもおなかの底からふふふと笑わせてくれてしかも百合っぽく(特に最後の2本)、楽しく読みました。

まとめ

絵もお話もほんのりと甘酸っぱい、上質な微百合作品でございました。レトロでやさしい雰囲気もよかったし、テンプレ女子校百合でもガチ百合でもなく、それでいてキュンキュンくるという独自性を高く買いたいです。巻末に「『ひまわりさん』は月刊コミックアライブにてゆるっと連載中」とありますが、してみると2巻も出るんでしょうか。出てほしいな。