石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

テレビ映画『荊の城』感想

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あの面白小説を見事に映像化

あの重厚にしてエキサイティングなレズビアン小説『荊の城』の、堂々のドラマ(BBC製作のテレビ映画)化です。上下2枚組で計180分は長いと最初は思ったのに、途中でやめられなくて一気に観てしまいました。原作とは違うところもありますが、主題は大切に守られていますし、サスペンスも官能もしっかりと描かれていて、よかったです。

ストーリー自体の感想は小説版『荊の城』のレビューに譲るとして、ここでは原作とドラマの共通点や相違点などについて述べてみたいと思います。

原作との共通点

原作の中の大切なポイントは余さず再現されており、小説版のファンにも十分おすすめできます。以下、よかった点を列挙。

主題
あの骨太なラブストーリーをよくぞここまで映像化したものだと感動するレベル。
官能
これはひょっとしたら原作を上回るぐらいかも? と言ってもポルノ的な過激さが増しているという意味ではなく、主人公たちの欲望と熱情がより伝わってくるという意味ですけど。
スリル&どんでん返し
先の展開を知っていてさえハラハラドキドキさせられました。冒頭にも書きましたが、あまりのスリルとサスペンスに、途中でやめられなくなってしまいますよこれ。
時代の空気
19世紀イギリスの陰鬱な風景が、まるでディケンズの小説のよう。お見事。

原作との相違点

構成の違い

原作では時間軸が現在と過去を行ったり来たりするのですが、このドラマ版ではより直線的な時間軸によって物語が流れていきます。たとえば、冒頭からしてスウだけでなくモードの少女時代も描写されるといった具合に。わかりやすい上にお話の緊張感もしっかりと保たれていて、非常によく練られた構成だと思いました。

スウとモードの性格の違い

小説版と比べて、ふたりの性格の「毒」はやや弱められています。たとえばスウが当初「ねんねの鳩ぽっぽ」を騙す気まんまんだったとか、モードがアグネスに意地悪をしていたとか、そういった部分はドラマ版にはほとんど出てきません。そのために人物造形が少し平板になって、お話がちょっとだけメロドラマチックになってしまっている、と言えば言えます。けれども、あの長い小説を限られた時間内に詰め込むにあたって、この程度の変更で済んでいるのはむしろものすごい善戦だと思いました。全部のエピソードを忠実に再現したら、3時間どころかその倍あっても足りませんものね。

ちょっと残念なオリジナル台詞

非常によくできたドラマ化なのに、一点だけ残念だと思ったのが、モードの駆け落ち前にスウが言うオリジナル台詞です。

「ラント通りが私をあざける 女を愛してしまうなんて」(Lant street are laughing at me and love with a girl.)

おいおいちょっと待てよ! 最近うちの掲示板でも話題になっていたのですが、小説『荊の城』の最もすごい点は「主人公たちがまったく異性愛規範を内面化していない」というところにあると思うんですよ。ヒロインたちへの時代的・社会的抑圧(貧困、束縛、etc.)がきっちりと描かれる中、「異性愛規範から自由であること」がそこから抜け出す一筋の希望につながるというところが爽快かつユニークなお話なのに、ここでスウの口から同性愛嫌悪を語らせてどうするー。(もっとも、ヒロインがわずかでも同性愛を厭う台詞は、計3時間の長丁場の中このワンセンテンスだけ。これぐらいなら、うっかり筆が滑った範囲内かな、とも思いますけど)

まとめ

原作と違うところもあるにはありますが、全体としては素晴らしいドラマ化だと思います。小説版のファンの方にも未読の方にもおすすめできる、濃密かつスリリングなレズビアン・ラブ・ロマンスだと思いました。