石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『ゆるゆり(11)』(なもり、一迅社)感想

ゆるゆり (11)巻 (IDコミックス 百合姫コミックス)

ゆるゆり (11)巻 (IDコミックス 百合姫コミックス)

アメコミ風絵柄ギャグ&思わぬ百合シーンが白眉

やっとレビューが最新刊に追いついた……! 11巻はどの回も堅実に笑わせてくれる上に、これはと思う部分も多く、よかったです。ギャグでは百合コメディとは思えぬアメコミ風絵柄の回が、百合ではちなつと結衣の意外にも正攻法なドキドキ展開の回がそれぞれイチオシ。千歳の鼻血ネタを復活させ、百合萌えのアホらしさや恥ずかしさを淡々と描写していくところもよかった。

「すまない遅くなった(BAAAAAN)」:アメコミ風絵柄のギャグについて

今回収録されている「SPECIAL★10」は、『ゆるゆり』アニメ版第2期についてのお知らせ漫画。今後の展開について語る京子の、

まずハリウッドで実写映画化

という台詞を機に画面がいきなりアメコミ調になり、しかもそれが延々3ページ近く続きます。もちろん、キャラ全員の顔も無駄にマッチョで微妙に怖いアメコミ風味に。描き文字も構図も、全部しっかりアメコミ風。それでいてやっていることはごらく部らしく単なるババ抜き、という、この世の物とも思えぬ世界が腹筋直撃でした。

この一連のシークエンスって、構成がばつぐんにうまいと思うんですよね。京子が「実写映画化」と言い出すのは見開き左側のページの最終コマなんですが、ここでは絵柄はいつも通りだし、結衣にも冷静に突っ込まれているしで、まさか怒濤のアメコミ展開が来るとは読めないようになってるんですよ。そこでページをめくるといきなり「すまない遅くなった(BAAAAAN)」 とアメコミ顔のあかりが乱入してくるという緩急の妙よ。しかも1~2コマで終わるのかと思いきやそのまま平然と話が進んでいくため、「いつまで続くんすかコレ」という読み手の心理の不安定さがさらなる笑いを呼ぶという、実に手の込んだ構造になっています。

これを見てもわかる通り、『ゆるゆり』って単にかわいい・おもしろいだけの漫画じゃないんですね。「うまい」んですよ、ひたすら。

ちなつと結衣のドキドキ展開について

意外にもちなつビジョンによるツッコミ皆無の、ちなつと結衣のドキドキ急接近ページ(p. 113)があります。ここだけ見ていると「これホントに『ゆるゆり』?』と頬をつねりたくなるほど。しかしやっぱり『ゆるゆり』は『ゆるゆり』なので、事態はきちんと収束し、お話自体も京子の小技のきいたボケできれいにオチるのでした。この絶妙のアクセルコントロールに拍手。

久々の鼻血ネタ、そして百合萌えのアホらしさについて

以前からずっとそうでしたが、これって実はかなり怖い漫画だとも思うんですよ。いわゆる百合妄想や百合萌えのアホらしさ・恥ずかしさをえぐり出す部分が必ずあるため、結果として「ナントカちゃん×ナントカちゃん萌へー」的な視点で読もうとする読者までが笑いのめされてしまうわけですから。萌え目当てで読んでる方々はよく平気だよな、といつも思います。笑われてるってことに気づいてないのか、それとも、笑われる己自身もメタ視して楽しむという解脱者の域に達しているのか……?

そのあたりは永遠の謎なんですが、11巻では特に、久々の鼻血ネタにくわえて千歳自身に己の妄想のことを

改めて言葉にしようとするとかなり恥ずかしいで…!?

と言語化させる場面(p. 67)があるところが印象的でした。盲目的な女の子賛美やいちゃいちゃ賛美をよしとせず、必ずこうして一歩ひいて笑う部分があるところが、実はあたしはかなり気に入っています。

まとめ

読者の心理をゆさぶりながら笑わせまくる構成がうまいし、百合シーンのアクセルコントロールも鮮やかだし、ベタな百合萌えをメタ視する冷静さも相変わらずで、楽しく読みました。さすが11巻も続いてる作品はクオリティ高いですね。