石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『思春期生命体ベガ』(林家志弦、白泉社)感想

思春期生命体ベガ

思春期生命体ベガ

甘酸っぱい思春期百合SFギャグ

怪獣から地球を守る宇宙人「ベガ子」と、ベガ子に求愛されまくる「鷲峰部長」が織りなす思春期アクション百合コメディ。恋の甘酸っぱさも、破壊力満点のギャグも、テンポのよい話運びも皆よかったです。『ストロベリーシェイクSWEET』なんかもそうですが、こういう照れのある百合ラブストーリーを描かせたら天下一品ですね林家志弦さんは。本編ももちろん、番外編「ハート・クッカー」「その女、宇宙人につき」も、100点満点で200点つけたいぐらい素晴らしかった。

まずね、ベガ子の突拍子もないキャラ造形がいいんですよ。登場2ページ目で部長にキスを迫り、それがかなわないと自らの顔面に生クリームをぶちまけて(2人は料理部所属です)、

さ これで自然な感じになりますよ どうぞ味見を

と真顔で言い出すところ(p. 25)とか。はたまた、

私の唇という名の月面に 先輩の唇という名のアポロ11号を着陸

とSFらしい(?)言い回しでにじり寄ってみるところ(p. 33)とか。何分宇宙人なだけに、発想やレトリックが地球人とだいぶんズレてるんです。そのくせ愛の告白となるとありえないほど直球だったりするというギャップもまたたまりません。

ちなみに、いわばボケ役のベガ子に全力でツッコミ続ける鷲峰部長も負けじといい味出してます。鉄山靠(八極拳の技の一種)まで駆使しての名実ともに体当たりのギャグに、腹筋がよじれました。

こうした笑いの数々は、「キス」という単語を「ずっと言うのも書くのも照れくさくて苦手だった」(あとがきより)という作者本人の照れを燃料にしてブーストされているのだと思います。その照れの気配が、ギャグのみらず恋の甘酸っぱさをも加速させていて、よかったです。たとえばふたりのファーストキスのシーン(p. 43)など、永遠に語り継がれるべき名場面かと。ベガ子の驚きを示す手の表情、ふたりの身長差、そこで顔を引き寄せるためにも、照れ隠しで顔を隠すためにも使われるタオルの役割など、どれをとっても心憎いったら。

ストーリーがわかりやすく、サクサク読めるところも好印象でした。「メインカップルは実は子供時代に出会っていた」「好きな人に恋人が、と思ったらいとこだった」のような王道パターンも散見されますが、おもしろいのでオールOK。「何もかも新しいが、つまらない」という作品と、「既製のパターンを使っているが、おもしろい」という作品だったら、そりゃ後者の方がいいに決まってますわな。『ウエストサイドストーリー』だって『ロミオとジュリエット』を下敷きにしているし、その『ロミオとジュリエット』も実はギリシア神話が原型なんだから、いいんですよこれで。

最後に、番外編について。「ハート・クッカー」は、第0話冒頭で部長が見ていたTV番組の内容という設定のギャグ漫画。お料理番組なのに真っ正面から百合という潔さと、解説役の料理研究家「薔薇原ルリ子」に惚れました。この薔薇原さん、百合漫画の読者ポジションの表象でもあると思うんですよね。巻末の「その女、宇宙人につき」は本編の後日譚にあたり、ベガ子のいとこ「アリーデ」の恋と肉欲が描かれます。全年齢向け漫画とはとても思えぬあからさまな欲望描写がたいへんよかったです。

まとめ

笑いも悶々もぎっしり詰まった、極上の思春期百合コメディです。『楽園Le Paradis 第3号』で第0話を読んだときから「連載作にならないかなあ」と思っていたので、こうして1冊にまとまってくれて大満足。続きが出てくれればさらに嬉しい(ほら、アリーデの捨てた石の話など、いい伏線になりそうですし)のですが、そこまで望むのは欲張りすぎでしょうか?