石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『あなたの知らない私』(サンドラ・スコペトーネ[著]/安藤由紀子[訳]、扶桑社)感想

あなたの知らない私 (扶桑社ミステリー)

あなたの知らない私 (扶桑社ミステリー)

つらい事実とささやかな救い

レズビアン探偵ローレン・ローラノシリーズ第2弾。親友メガンの射殺事件を追う主人公が気づいてゆくつらい事実と、その中のささやかな救いが描かれます。謎解きには一部疑問も残るものの、巧みな人物造形やユーモアの魅力は相変わらず健在。メガンとの友情をからめて描かれるレズビアン・テーマについても、涙なくしては読めません。

メガンの事件がえぐり出すもの

第1章で何者かに殺される宝石店店主メガン・ハーボーは、ローレンが6歳のときからの幼なじみ。自分自身は異性愛者なのに、ローレンの性的指向に早くから気づいていて、本人より先にそのことを受け入れてくれた大親友。まだクロゼットだった中学生時代のローレンに向かって彼女があっけらかんと

「女の子が好きなんでしょ?」

と切り出す(p. 24)場面は圧巻です。その後、「レズビアン」「同性愛」などの語が嫌で泣き出すローレンに向かって

「諦めなさい。いい言葉なんてないんだから」

と豪快に笑い飛ばしてくれる場面(p. 26)に至っては、「子供時代にこんな親友が欲しかった」と思わないレズビアンはいないはず。だって本当に、今でさえ「いい言葉」なんてなくて、内面化されたホモフォビアの戦いはとても苦しいものだから。

この愛すべきメガンがなぜ射殺されたのか、という謎が物語の核となっています。冒頭で描かれるメガン像が魅力的であるだけに、暴かれていく真実はいっそう衝撃的です。ここでユニークなのは、捜査が進むにつれてメガンのみならずローレンやその恋人、友人などの隠れた一面までさらけ出されてしまうところ。つまりこれは正義の探偵が悪を討つ物語ではなく、「よく知っていると思っていた人間(自分から見た自分も含めて)の中に、実はまったく知らない不愉快な面が隠れている」といういたたまれない現実をえぐり出す人間ドラマなわけです。

冒頭で少し触れたように、謎解きの一部にはプロットの弱さを感じないでもありません。しかし、このお話の本質はローレンとすべての読者に突きつけられるある種のつらさにあるので、トリックにまでそうこだわらなくてもいいかなと。少なくともあたしは大詰めで「こんなのあり?」と驚きつつもけっこう楽しく読んでしまいました。

人物描写とユーモアについて

前作『狂気の愛』に負けず劣らず、NYの住人たちの描写がみごとです。明らかに頭のおかしい通行人(たち)や人種差別主義者、アルコール依存症の母親と共依存の父親……と書いていくと「どんな殺伐とした話だ」と思われそうですが、スコペトーネ一流のユーモアを舐めちゃいけません。どのキャラクタも笑いと皮肉の効いたピリっとくる表現で料理されており、殺伐とはほど遠い味わいがあるんですから。読んでいると、まるで映画を観ているかのごとく、キャラたちが生き生きと紙面から立ち上がってきます。

結末の救いについて

エピローグで描かれるのは、ローレンとキップの12周年記念ディナー・パーティーの準備風景。「どんな人にも秘密と嘘があり、いずれは裏切られるかもしれない」という重たいお話の後だけに、この場面のコミカルさと官能が一抹の救いとなっています。その救いが本当にささやかで儚いものであることは、シリーズ後半の展開を知っている人には痛いほどよくわかるのですが、今はただ、ディナーの席次に悩むローレンのこんな長台詞(p. 437)に笑っておきましょう。

「考えてもごらんなさいよ。ベッツィーとアンはわたしたちとつき合っていただけじゃないわ。二人ともドリスともつきあっていたじゃないの。ドリスはドリスでジョーンと恋人同士だったし、ジョーンもフィリスと恋人同士だったことがあるわ。でもフィリスだってアンと恋人同士だったし、ジョーンは昔ベッツィーとつき合っていたし、ベッツィーは一時フィリスとデイトしていたわ。フィリスはいまはドリスとつき合っているけど、ドリスとアンの関係は長くつづいていたわよね。アンはいまベッツィーだけど、その前に短かったけれどマリオンと関係があったわ。マリオンとは、あなた、酔っ払ったときにいっしょにベッドに言ったのよね」

レズビアンの世界の狭さって、ホントにこんななんですよ。初めて読んだとき、「どこも同じか!」と涙流して笑い転げたのを憶えています。

まとめ

誰しも逃げられない苦い現実と、その中にある小さな希望を描くミステリ。人間ドラマとしてしみじみ面白いし、笑いと皮肉のきいた筆致や、いつもながら心憎いレズビアン描写もよかったです。初版(日本語版は1994年)から丸20年たっても少しも面白さが衰えないというスコペトーネの凄さに、ただ拍手。