石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

新宿2丁目のHIV啓発看板に「不快」と検閲 海外から反響

Japanese flag
Japanese flag / wisegie

2014年3月、新宿2丁目仲通りに啓示されていたHIV啓発看板に「不快」と苦情が入り、役所の指導で下着姿のゲイ男性のイラストが修正されるという1件がありました。海外メディアのBuzzFeedやQueertyがその件について報じていたので、内容をちょっと紹介してみます。

詳細は以下。

くだんの看板の、修正前の画像は以下をごらんください。

特に扇情を煽るような絵でもないし、共生を訴えかけるメッセージもまっとうだし、いい看板だと思うんですよね。でも、これを「不快だ」とする人がいて、役所を通じて修正の要求が入っちゃったんです。

以下、このイラストを描かれた村田ポコさんのブログより引用。

看板が掲示されたのち、近隣住民より看板のイラストが不快だと新宿区役所に苦情が入り、
年明けの1月に役所から広告主に看板を修正するよう指導がありました。
企業側も「看板は公序良俗に反するものではない」とした上で 代理店が役所との交渉にあたってくれましたが聞き入れられず、2期以降プロジェクトを継続させるために役所の指導を受け入れるとの判断になりました。

上記ブログによると、修正はまずイラスト中央のマッチョ男性にタンクトップと短パンを着せるというかたちでほどこされ、それでもなお「下着が見えている」としてダメ出しされて、結局さらに下着を隠したイラストを代理店が作成したとのこと。

この件について報じた英語メディアBuzzFeedは、複数の写真を使って的確なツッコミを入れています。まとめると、「新宿にはロボットレストランや風俗の看板などで肌もあらわな女性の画像がいっぱいあるのに、ゲイキャラが下着姿でHIV啓発すると検閲されてしまうのはおかしい」という主張。きわめてもっともだと思います。

BuzzFeedで挙げられている比較画像をそのまま持ってくるわけにもいかないので、以下、「新宿」「Shinjuku」などをキーワードにしてFlickrで見つけたクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの画像をいくつか貼ってみます。

ロボットレストランの広告。

Tokyo Robot Restaurant
Tokyo Robot Restaurant / Danny Choo

ガールズバーの広告。

campaign truck
campaign truck / ivva

AKB48の広告。

新宿歌舞伎町 Kabukicho
新宿歌舞伎町 Kabukicho / Ari Helminen

こうしてあらためて画像で見るとすごいですね、新宿。この手の看板がおとがめなしで、HIV啓発看板がダメというのは、要するに露出度の問題ではないのだということがよくわかります。シスヘテロ男性向けの物なら扇情的なエロ広告も大歓迎だが、ゲイならたとえHIVへの注意喚起でも許さん、という、あまりにもわかりやすい二重基準があるわけです。

「ゲイの半裸は不快」というのは理由にならないと思うんですよ。もし「不快だ」というのが検閲の根拠として成り立つのなら、電車の中吊りや携帯・スマホサイトのエロ広告など、とっくに修正されていてもいいはずでしょう。この看板の非じゃないぐらい「不快だ」という声があるんですからね。でも、そっちはいつまでたっても放置されたままで、つまり「不快かどうか」は基準じゃないわけです。あるのはただ、「マジョリティたるストレート男性様に迎合する表現か、そうでないか」という線引きだけ。

ちなみにBuzzFeedはコメント欄も辛辣ですよーう。

秋葉原では短いドレスを着た爆乳マンガキャラの看板がひっきりなしに目の前に表れるのに、それはOKで、日本で長年無視されてきたことについて注意喚起する看板、目立たなければいけない看板は検閲されるんだ……。

i have fake manga tits nearly exploding in my face out of short dresses on every second billboard in akihabara and that seems ok, but a billboard that is raising awareness of something that has been ignored way to long in japan and that should be outstanding gets censored...

「ボーイズラブ」や「ガールズラブ」のマンガは異性愛者の読者向けの一大産業だが、人気のある作品の多くは虐待をともなう関係や非現実的な同性愛を描いている。同性愛がとても長い間フェティッシュ化されてきたために、下着姿のゲイ男性は下着姿の女性よりスキャンダラスだと思われているのではないか。

"Boys' love" and "girls' love" comics are a big industry catering to heterosexual readers, but many popular ones depict very abusive relationships and unrealistic depictions of homosexuality. I suppose that because homosexuality has been fetishized for so long, seeing a gay man in his underwear is more scandalous than a woman in her underwear.

どっちも真実をグッサグサ突いていると思います。ええ、そういう国なんです日本は。お恥ずかしいことに。

他のゲイメディア、Queertyの報道も論調はほぼ同じで、異性愛者向けの風俗だのセクシーマッサージだのであふれかえる新宿で、公衆衛生のためのマンガ絵を取り下げろと騒ぐのはおかしいと批判されています。BuzzFeedとちょっと違うのは、看板のイラストに黒人がいないことが疑問視されているところ。これについてもコメント欄に耳が痛い指摘があります。

日本じゃかつてHIV/AIDSは外国の病気だと考えられていて、外国人と遊ばなければ大丈夫だろうと誤解している人たちがいたんだ。もしこの広告に黒人男性(または、明らかに日本人ではなさそうな外見の人)を登場させたら、またしてもAIDSは外国人に関連があると示すか、または暗示することになり、逆効果だったろう。

HIV/AIDS used to be thought of as a foreign disease in Japan, with guys incorrectly thinking that as long as they didn’t play around with foreigners they would be safe. If the ad had included a black guy (or anyone distinctly non-Japanese looking) it would have been counterproductive, again showing or implying that AIDS is connected to foreigners.

こ、これも否定できないわ。

最近みやきち日記で書いたことともつながってくるんだけど、日本ってHIV/AIDS全般への知識が80年代か、せいぜい90年代ぐらいからアップデートされていない人があまりにも多いと思うんです。この背景には「HIV/AIDSはゲイの病気、外国の病気、自分たちには基本関係ないもの」という誤解があるのではないかと思います。他人事だと思っているからこそ、最新情報にも関心がないわけですからね。日本が先進国で唯一HIV感染者が増え続けている国で、しかも発病するまで検査も受けない「いきなりエイズ」パターンが多い(特に異性愛者に)理由は、このへんにあるんじゃないかなあ。

そんなわけでいろいろと恥ずかしいニュースでしたね。クールジャパンとか言ってる場合じゃないわ、もう。

おまけ

この件と関係があるかもしれない記事。

www.huffingtonpost.jp