石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『潔い死を』(サンドラ・スコペトーネ[著]/安藤由紀子[訳]、扶桑社)感想

潔い死を―女性探偵ローレン・ローラノシリーズ (扶桑社ミステリー)

潔い死を―女性探偵ローレン・ローラノシリーズ (扶桑社ミステリー)

ローレン最大の危機

レズビアン探偵ローレン・ローラノシリーズ第4弾。昔襲われたレイプ犯に再び付け狙われるわ、キップとの関係にもヒビが入るわで、公私ともにローレン大ピンチの巻。あっと驚く結末も秀逸で、ミステリとしても恋愛小説としても最後まで気の抜けない傑作です。いつもながらのユーモアや、差別や侮蔑に対してローレンが見せる反骨精神もよかった。

あのサイコパスが再び登場

かつて高校時代のローレンをレイプし、半殺しにしたあのサイコパスが再び登場。再び、と言ってもこの男はこれまではローレンの回想に出てくるだけだったのですが、今回初めて名前も明かされ、実体を持った宿敵として主人公を付け狙います。彼の名はアレックス・ウェスト。刑務所に入れられて以来、20年以上ローレンを逆恨みし続けていた異常者です。

最初は留守電で、次は直接の電話で、その次は事務所荒しでとだんだんエスカレートしていくウェストの脅しは恐怖のひとこと。しかも今回、ニューヨーク市警の頼れる友人チェッキー警部補は重傷で入院中、パートナーのキップも出張中という念の入った設定があり、ローレンはほぼ孤立無援でこの恐怖と戦うことになります。それも、仕事として別口の殺人犯を追いながらです。最後まで気が抜けないスピーディーなストーリーは、シリーズ中いちばんの傑作と言っても過言ではないかと。

恋愛方面でも波風が

前作『愛しの失踪人』でのある1件以来ぎくしゃくしていたローレンとキップの間に、今回さらに波風が。年下の美しいレズビアン、アレックスに、ローレンがよろめいてしまうんです。キップとの結婚生活は14年目ですから、7年目の浮気ならぬ14年目の浮気というわけ。

原題"Let's Face the Music and Die"のMusicというのは、ローレンとアレックスの距離がメールを通じて縮まっていく部分を暗示しているのだと思います。というのはこのふたり、メールの件名に歌のタイトルを使っているから。ローレンからアレックスに"All the Things I am"(わたしのすべて)という件名で自己紹介を送れば、アレックスは"Lazy Afternoon"(けだるい午後に)というメールで遠回しに誘いをかけ、そこにローレンが"Just in Time"(ちょうどいいとき)と自分の性的指向を明かし……という具合に、言葉遊びを絡めた探り合いで互いに惹きつけられて行くんです。アレックスの機知やかわいらしさも、そこにときめくローレンの心情もよく伝わる、たんねんに計算された展開だと思います。

では、原題の"and Die"とは何を指しているのか。事件捜査やサイコパスとの対決にともなう危険はもちろんのこと、結末のあっと驚くクリフハンガー展開をも指し示しているに違いないとあたしは見ました。それぐらい衝撃的なエンディングなんです。今この小説を読む人は幸せですよ、次の巻(『リゾートタウンの殺人』)が出るまで1年以上も身悶えしながら待たなくて済むんですから。

ユーモアと反骨精神

ローレンがいつも通りのせっかちさでエレベーターを50年も待つところや、「2度目のデートでレズビアンは何をするのか?」なんていうレズビアン・ジョークが出てくるあたりには、思わず笑みがこぼれました。いかにもローレンらしい反骨精神の発露もよかったです。それがもっとも顕著だったのは、宿敵ウェストに銃をつきつけられながらのこの会話(pp. 416-417)。

「おまえに聞きたいことがあるんだ、ローラノ。おまえをレズにしたのはおれか?」
彼はそうだと言ってもらいたいのだろうが、どう答えようが、もはや彼がここでの計画を変更することはありえない。だとすれば望みどおりの答えなどしてやるものか。「いいえ、ウェスト、そうじゃないわ。わたしは生まれたときからレズだったのよ」
彼は眉根にしわを寄せ、小さな目を補足する。「それじゃ、おれたちが殺ったあのガキとはどうなんだ?」
「あれは見栄」
「くそっ、でたらめ言うんじゃねえ」
これには大笑いしそうになる。それをぐっとこらえ、彼のとんでもない思い込みをこばかにするかのように肩をすくめる。

女が「レズ」になるのは男に与えられたトラウマのせいだという陳腐でくだらない俗説を、命の瀬戸際でもきっちり否定してみせるところがかっこよすぎ。身長わずか5フィート1インチ、V・I・ウォーショースキーと違って空手の達人でもない45歳のローレン・ローラノのこの態度、これこそタフというものでは。

まとめ

殺人事件の謎を解くメインプロットに、「ストーカーとの対決」、「キップとの関係の危機」というふたつのサブプロットを巧みに絡ませたスリリングな作品。推理小説としてのみならず、等身大の大人のレズビアン恋愛小説としてもおすすめ。ただし、これから読まれる方は必ず次の巻も合わせて買いましょう。さもないと夜中に「いったいどうなるのー!?」と転げ回るはめになりますよ。