石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。

『寒くなると肩を寄せて』(鈴木健也、エンターブレイン)感想

寒くなると肩を寄せて (ビームコミックス)

寒くなると肩を寄せて (ビームコミックス)

日常にひそむ奇妙さと優しさ

『蝋燭姫』の鈴木健也さんの短編集。昆虫食や結合双生児、聖女の殉教など、世間一般的にはショッキングな素材を扱いつつ、根底に独特の優しさが流れる1冊です。悪魔の娘が人間の娘と仲良くなろうと奮闘する微百合物「少女というより痴女だった」がキュート。

「少女というより痴女だった」について

ビラ配りのバイトでつつましく暮らす悪魔少女が、レンタルビデオ屋の女性店員と仲良くなりたくて右往左往するお話。……というと何やらファンタジックなストーリーに聞こえますが、実はもっと泥臭い生活感のある短編です。悪魔娘のジャージ姿や小汚い部屋の描写がかもしだす「ザ・貧乏な一人暮らし」感がたまりませんし、その父親(魔王?)の中年おっさん風の造形も意表をついています。だからこそ、クライマックスの怖さやおどろおどろしさ、そしてそこからの予想外のオチがいっそうひきたつわけで、この緩急のつけ方がひたすら楽しいです。

なお、百合として読むならば、悪魔娘の表情に着目。特にクライマックス以降。かわいいったらありゃしません。

その他の作品について

収録作全体の共通項は、どの作品にも恋の喜悦と悲しみがあること。そこにさらにエロとグロの境目をたゆたうきわどさを加えたのが、「虫の味がする」、「ジゼルとエステル」、「ロズリーヌ・フラウの肖像」の3編。キャラの幼さ・若さに焦点を当てたのが「淑女はドレスに着替えない」、「友達なんて思ってないんだ」、「芹沢くんと工藤くん」の3編。もっとも寓話的で難解なのが「水槽の街」と分類できると思います。

上記のうち、「友達なんて思ってないんだ」と「芹沢くんと工藤くん」は続き物で、友情譚ともライトなBLとも解釈可能。「友達なんて~」のバスの中での情景が2人で見た映画の台詞と重なるところや、工藤くんのバス停での唐突な話題の振り方などから見て、単なる友情よりもう少し色濃いものを描いているとあたしは受け取りました。

まとめ

「日常と非日常」「恐怖と笑い」「不気味さと美しさ」「グロとエロ」等々、異質に見えて実は表裏一体なものを紙の上にさらりと閉じ込めてみせた短編集。微百合と微BL(っていう表現はあるのかしら)も入ってお買い得。この作者さんのこういうテイストの短編、もっと読みたいんだけど、出してくれませんか出版社さん。