石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『かっこ悪くていいじゃない』(森奈津子、祥伝社文庫)感想

かっこ悪くていいじゃない (祥伝社文庫)

かっこ悪くていいじゃない (祥伝社文庫)

バイセクシュアル恋愛小説

両性愛者女性・美里を主人公とする、性愛描写多めの恋愛小説。Hシーンはほぼ男性相手で、ペニスへの愛情やこだわりの描写も多いため、レズビアンには正直ピンと来ない部分も。しかし美里の啖呵や、彼女が表題作の境地にたどりつく結末にはスカッとしました。

ピンと来ないというか異文化というか

男性に性的興味のないいちレズビアンから見ると、たとえばこんな描写がもう完全に異文化なわけですよ。

最初の夜、女は愛撫を装って、男の性器を検分するものだ。
親指と人差し指で作った輪に、ちょうど収まる太さ――よしよし。痛くもないし物足りなくもないってサイズだ。

へーーーーーー。

思わず親指と人差し指で輪を作ってしげしげと眺めてしまいました。そうか、ちんこでセックスされる方には、マッチングの問題があるのね。ディルドならサイズなんて選び放題なのにねえ。……と、このへんまでならまだ想像力の翼をはばたかせて努力すればついていけるんですが、

手触りは、表面の数ミリが柔らかく、中は硬い感じだった。表面までガチガチにならず、女の立場から言えば「使い心地」が大変によろしい、これはなかなか貴重なお宝だ。

というくだり(p. 20)に至っては、もはや遠い異国の祭儀に使う謎グッズの使い勝手の論評を聞いているかのごときアウェイ感が。「シウテクトリとヤカテクトリに捧げる踊りの衣装は、リスよりコウモリの方がいけてるわよね」と言われてもさっぱりわからないのと同じぐらいの感覚というか。

ただ、異文化として眺めるとこれはこれで興味深かったりもします。特に美里とゲイバーのマスター・カズが繰り広げる「脱がせてがっかり」問題や「なんであんなに個人差があるのか」問題の話など、あたかも初めて黒船を見た漁民のごとくカルチャーショックを受けつつ楽しませていただきました。ヘテロ女性やバイセクシュアル女性だとどんな感想を抱くのか、ちょっと聞いてみたいです。

啖呵はさすがにこの作者さん

『耽美なわしら』のレズビアンキャラ・田中彩子の啖呵を心のよりどころとしている身としては、美里の台詞の数々にもやはり快哉を叫ばざるを得ません。たとえばバイセクシュアルならではのこんな台詞(p. 50)とか。

『あなたは男にひどい目に遭わされて、男性不信になって、バイになったのか』って訊かれたこともありますよ。失礼だと思いません? どうせなら『男性と素敵な恋愛を重ねて、素晴らしい女性に出会うチャンスもたくさんあって、バイセクシュアルになることができたんでしょうね』ぐらいのことは言ってほしいですよね

「この発想はなかったわ」と目ウロコ。そうか、レズビアンの場合は、「素晴らしい女性に出会うチャンスがたくさんあって、レズビアンになることができた」と言えばいいのね!

他にはこんなところ(p. 127)も大好きです。

バイセクシュアルをなめるんじゃないよ。裸の女を目の前に転がされれば喜んで飛びつくと思ったら、大間違い。あんたみたいな能なしの冷凍マグロはごめんだね。

そうなのよ。相手が女が好きな女だというだけで、自分にも欲情するに違いないとか、股開いて転がってれば自動的にめくるめく快楽を提供してもらえるはずだと思い込むお花畑女にはもううんざりなのよ。だいたい、女性経験ゼロな時点で自分が単なる童貞女だってことに気づいてほしいわ。なーんのテクニックもないくせに「自分は性的に魅力的なはず、さあ触らせてあげる★」と転がってるだけの冷凍マグロ童貞がもてる世界が、どこにあんのよっ。

最終章のモチーフ

不倫の恋や波乱の失恋を経て主人公が訪れるのは、沖縄県の竹富島。亀甲墓についているあるモチーフを見に行くという設定です。このモチーフを見ながら元気回復し、「かっこ悪くていいじゃない」と開き直る美里の姿に、「ひょっとしてあれだけ男性器の話を振ったのは、こことのバランス取りのためだったのかも」と思いました。つまり、ペニスとこのモチーフが対になって美里のバイセクシュアリティーを象徴し、かつ肯定しているのではないかと。これだけはっきり両性愛を打ち出した恋愛小説ってそうそうないので、LGBTのBの不可視性にむかついてる方におすすめです。

まとめ

レズビアンが読むにはアウェイ感が強い小説で、特に男性器や男女セックスの話が苦手な方にはおすすめしません。が、逆に1種のカルチャーショックを楽しむという読み方は可能ですし、主人公の変化や成長も爽快です。いつかあたしが竹富島に行って亀甲墓の写真をブログにupして浮かれていたら、それはまちがいなくこの小説の影響。沖縄はツーリングで行ったことがあるのに、石垣島、西表島、波照間島しか回ってないんですよあたし。レズビアンのくせにそんなステキなものを見逃していたなんてと、実は今歯がみしているところ。