石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『東京異端者日記』(森奈津子、廣済堂)感想

東京異端者日記

東京異端者日記

1998年の日記まとめ

両性愛者の作家・森奈津子さんがホームページで発表された日記(1998年7~12月分)を加筆修正の上まとめた1冊。いわば「笑いながら読める、90年代日本のセクシュアル・マイノリティ日記文学」。資料としても面白く、用語解説も親切です。

交錯する「現実」と「幻想」、そして90年代の空気

この本のあとがきには、こうあります。

『東京異端者日記』は、多くの人々が「幻想」だと思っていたことを「現実」としてお見せするものである。

ここで言う「幻想」とは、マジョリティから見た性的少数者の世界のこと。実際、日記中にはゲイもレズビアンもMTFもFTMも登場し、セクシュアリティやジェンダーの話も山ほど。ブルセラショップやアダルトグッズショップ、スカトロジー、死体愛好、SMなどの話題もごく当たり前に出てきます。

2014年の今でこそずいぶん状況も変わってきましたが、1998年の日本というと、性的少数者はまだまだインビジブルな存在でしたよね。そのわずか4年前の「東京レズビアン・ゲイパレード」で、レズビアンの参加者を見た沿道の人から「レズって本当にいたんだ……」という声が聞かれたぐらいですもん、冗談抜きで幻想上の生物にされてたのよ。その時代を振り返ることができる本として、とても面白かったです。

余談ですが、ここでどうしても思い出さざるを得ないのが、先日レビューした米ドラマ『Faking It』のゲイキャラ・ショーンくんのこの台詞。

ゲイいじめか。誰か90年代後半臭い人がいるわね!

Bullying the gays. Someone reeks of the late 90's.

そうなのよ。90年代後半って、そんなもんだったのよ。いや、いまだにここから知識や態度がアップデートされてない人もいますけどねもちろん。

資料集としての『東京異端者日記』

日記に登場するレズビアン関係の雑誌・書籍だけでも、こんな名前が次から次へと。

  • 「フリーネ」(三和出版)
  • 「アニース」(テラ出版)
  • 「クレア」(文藝春秋)1991年2月号
  • 『ウーマンラヴィング――レズビアン論創成に向けて』(現代書館)
  • 『カサブランカ革命』(イースト・プレス)
  • 「美粋」(宙出版)

最後の「美粋」はあたしはほとんど読んでいなかったので、こんな記述(p. 176)がたいへん勉強になりました。

「美粋」には、同性愛者の目から見て変な作品がないとは言い切れなかったが、レディコミ誌の中では絵もストーリーも質が高く、なによりも、ハッピーエンディングだというのが、私にはうれしかった(中には切ないラストの作品もあったが、それなりに前向きだった)。
それ以前は、レディース・コミックで百合物と言えば、ほとんどが悲劇だったのである。
同性愛は背徳ゆえ悲劇に終わる――という図式を、「美粋」は見事にぶっ壊してくれたのだった。

全然知りませんでした。もっとレディコミ系のドロドロ話が多いのかと誤解してました。今調べたところ「美粋」の刊行は1995~1999年。『少女革命ウテナ』の放映が1997年、『マリア様がみてる』刊行開始が1998年、「百合姉妹」創刊が2003年です。してみるとやはり「美粋」は、明るい百合の先駆者だったのかも。……てな具合に、レズビアン当事者ですら取りこぼしていた知識が補完できる本なんですよ、これ。今となっては、すごく貴重。

他にはこんなところも面白かったです。

ホラーとSF、どちらがすごいエッチができるかというと、それは絶対にSFです。作者が作品世界を丸ごとプロデュースすることができるのですから、現実離れしたエッチでも可能なんです。

このコンセプトがのちに『スーパー乙女対戦』(徳間書店)の特撮系触手エロとなって花開くわけですね!

マジョリティへの配慮

巻頭に用語集がついている上、文中にも細かい注釈がついているので、マジョリティの皆さまにも読みやすいのではないかと思います。『耽美なわしら』と同じく、嬉しい配慮ですね。

まとめ

「幻想」サイドの住人として今読むと、「『性的少数者あるある』が詰まった懐かしい本」だと言えます。森奈津子ファンとしても楽しめる本。できれば「現実」の側の、つまり性的マジョリティの方々の感想も聞いてみたいです。自分自身が「あやしい人々」(p. 9)だと、マジョリティからのズレっぷりはなかなかつかみにくいので。