石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『In My Skin: My Life On and Off the Basketball Court』(Brittney Griner & Sue Hovey, It Books)感想

In My Skin: My Life On and Off the Basketball Court

In My Skin: My Life On and Off the Basketball Court

WNBAスター選手の感動的自叙伝

レズビアンのプロバスケ選手ブリトニー・グライナーによる自伝。かつて自分が受けたいじめや、支配的でホモフォビックな親&コーチとの対立などについて率直に語り、「本当の自分でいること」を力強く肯定する本です。LGBTユースに特におすすめ。

「なぜこんなに人と違うんだろう? どうしてみんなみたいになれないんだろう?」

ブリトニー・グライナー(Brittney Griner)は1990年生まれ。テキサス出身で、身長2メートル3センチ。高校時代は1試合で最高7本のダンクシュートを決め、全米ナンバーワン選手と呼ばれました。大学でもNCAA史上1位(男女通じて)のブロックショット記録(通算736本)を達成し、全米代表選手に3度選ばれています。2013年、ドラフト1位でWNBAのフェニックス・マーキュリーズに入団。

こんな華々しい経歴とすぐれた身体能力を持つ人が、なぜいじめに? と思ったら、やはり「人と違う」ということを理由にあざけったりいじめたりするのが大好きな人というのはどこにでもいるんですね。子供時代のブリトニーは、「胸がないから男だ」と嘲笑されたり、「化け物」と呼ばれたり、歩き方や話し方を真似されて「気をつけて! ブリトニーにゲイにされるよ!」などとはやし立てられたりしたそうです。そうやって「男」「化け物」扱いしてくる一方で、ブリトニーが男子と仲がいいのが気に入らず「あたしの彼氏を盗もうとしている」と因縁を付けてくるバカもいたそうですから、もう本当にいじめっ子って口実は何でもいいんですね。

ブリトニーは小学生のころ、日記にいつも泣いている子の絵を描き、「なぜこんなに人と違うんだろう? どうしてみんなみたいになれないんだろう? 朝目が覚めたら普通になっていますように」と書き殴っていたそうです。ちなみに現在でも、彼女について「男だ」だの「五輪に出場しなかったのは染色体で男とばれるからだ」だのと中傷するインターネット・トロールは後を絶ちません。しかし、ここで子供時代と大きく違っているのは、ブリトニーの側の考え方。ちょっと裏表紙から引用して訳しますよ。

今になって過去を振り返ると、自分が排他的な集団の中にあんなに入りたがっていたことが馬鹿馬鹿しく思えてきます。あのね、排他的なやつらなんて、どうでもいいのよ。みんなと同じになろう、みんなと同じように話したり行動したりしよう、自分以外の誰かになろうと一生懸命努力するのは疲れるし、自己破壊的です。……どんな人の声も大事であり、人と違っているのはいいことなんです。

彼女がここまで歩んできた道のりを解き明かすのが、この本。面白くないわけがありません。特にLGBTのティーンエイジャーに読んでほしいなあ。英語も平易だし、決して辛い話ばかりじゃない、キュートでユーモラスな本だから。

父親やコーチとの対立

この本を読んでもっとも驚かされたのが、父親や大学バスケ部コーチとの確執について非常に正直に綴られていること。このふたりは支配的・偏執的・同性愛嫌悪的なところがそっくりで、レズビアンとしてのブリトニーをさんざん苦しめます。ふたりの相違点はというと、父親の方はおおっぴらに同性愛嫌悪的であるのに対し、ベイラー大コーチのキム・マルキー(Kim Mulkey)氏は「寛容なふりをした偽善者」であること。

ブリトニーが所属していたベイラー大学ってキリスト教系なんですよ。だから彼女は入学前からあらかじめ自分がレズビアンであることをキムに伝えてあり、キムは「何も問題ない」と言っていました。奨学金も無事支給されました。ところが入学後、キムは同性愛者であることを隠せと強要。バレンタインデーに彼女と一緒にディナーを食べていただけで翌日呼び出されて「人に見られないようにしろ」と説教されるという日々が、ブリトニーを待ち受けていました。

TwitterにちょっとでもLGBTフレンドリーなことを書けば「消せ」と言われ、映画館で深夜恋人とキスしているところを見た人から匿名の通報があれば、やはり呼び出されてお説教。この状態でいったい何がどう「問題ない」つもりなのか。

ちなみにベイラー大の校則では同性愛のみならず、男女間の婚前交渉ですら禁じられているのだそうです。でも、異性愛者のバスケ部員たちが彼氏とのバレンタインデートについておおっぴらに語っていても、そちらはまったくおとがめなしだったとのこと。キムの言い分では、ブリトニーは大学バスケ部の「顔」であり、同性愛者であると知られたら「間違ったイメージ」を持たれて「新入部員の勧誘に悪影響を及ぼす」ということだったらしいですよ。へー。(棒読み)。

ブリトニーはこう書いています。(p. 115)

ベイラー大でバスケットボール選手としてどれほど支援を受けていようと、あそこで受けた苦痛は消せるものではない。このことについて考えれば考えるほど、ベイラー大の経営陣は、相反するものをどちらも手に入れたがっているように感じる。彼らはクリスチャンの大学としての売りを失わないよう、方針を変えないままでいたいのに、大学に在籍する同性愛者の運動選手の成功から利益を得ることには大喜びなのだ。それはつまり、同性愛者の運動選手たちがゲイであることを話さない限りは大喜び、ということである。

女子バスケットボール界が全部こんな風だというわけではありません。アメリカ女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)はつい先日、LGBTファンを対象とした『WNBAプライド』キャンペーンを開始し、プロチームがプライド・イベントに参加したり、LGBT団体と活動したりする計画を発表したばかりです。キム・マルキー氏がこれに対してどんな顔をしているのか、見てみたいものです。これでもまだ偽善的な態度を続けて、同性愛者の選手の功績だけ搾取しようとするんでしょうかね。

その他いろいろ

  • 決してセクシュアリティだけに特化した本ではなく、ブリトニーの茶目っ気やドジッ娘ぶり、そして桁外れの身体能力を示すエピソードもてんこ盛りです。共著者で元ESPN編集長スー・ホビー氏の筆の冴えもあるのでしょうが、面白すぎてあっという間に読み終えてしまいました。
  • いろんな裏話も面白かったです。たとえば、ジョーダン・バーンキャッスルのひどい反則に腹を立ててぶん殴ったときの話とか。ドラフトの席での衣装は、実はエレン・デジェネレスを担当しているスタイリストが選んだものだとか。

まとめ

「人と違っていてはいけない」という圧力に苦しめられた/苦しめられているすべての人を力づける名著だと思います。読みやすさも二重マルで、特に子供たちに読んでほしいです。kindle版も出てるし、日本のLGBTユースも、ぜひ!

In My Skin: My Life On and Off the Basketball Court

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