石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『咲-Saki-(1)』(小林立、 スクウェア・エニックス)感想

咲 Saki (1) (ヤングガンガンコミックス)

設定は奇抜、しかし内面描写は堅実な萌え麻雀漫画(百合あり)

美少女麻雀バトル漫画、第1巻。一見ただの萌え漫画風でありながら、(1)意外性ある設定、(2)ターゲットとなる客層の明確さ、(3)キャラ造形の堅実さなど、周到さを感じさせるつくりになっています。百合は思ったより薄口だけど、これはこれであり。

スポーツ漫画+麻雀+萌え→シュールな異次元空間

「天賦の才があるのにその競技をやりたがらない主人公」「仲間と全国に行こうと約束」「挫折をバネに猛特訓」等々、スポーツ漫画のお約束がてんこもり。しかし、彼女たちが戦うのは麻雀。女子高生なのに麻雀。インターハイなのに麻雀。あくまでさわやかに麻雀。このギャップが駆動力となってストーリーを転がしていくという仕掛けに、まず脱帽しました。

ギャップと言えば、不自然なまでに詰め込まれた萌え要素もそうですね。水風船のような乳描写、「エロゲか!?」とツッコミたくなるほど短いスカート、唐突なメイド服や温泉シーンなどが、およそ麻雀漫画とは思えない異次元空間の創出に一役買っています。この、「スポーツ漫画+麻雀+萌え」という異様な組み合わせが、いわば1種の「解剖台の上でのミシンとこうもり傘の出会い」として機能しているのが、この漫画の最大のポイント。やったもん勝ちですね、こういうのは。

客層設定がはっきりくっきり

上記のシュールすぎる設定に加え、麻雀の対戦を異能バトル風に演出することで、ターゲットとなる客層がかなり明確になっています。「『麻雀に詳しくなくとも少年漫画の、それもスポーツ漫画の文法に親和性があり、萌えに抵抗がない層』がメイン客」という割り切りがあるわけ。逆に言うと麻雀にアウトロー性を求めるおっさんや、萌え耐性がない人は完璧に切り捨てられているわけです。この思い切りのよさが1種のジャンピングボードになって、お話をより自由に羽ばたかせている気がします。

意外と手堅いキャラ造形

奇抜な世界観の作品なのに、よく見るとキャラ造形は非常にオーソドックス。主人公の咲は超人的な才能を持つ一方、つらさや悩みも抱えており、観客が共感しやすいヒーロータイプ。そのバディ役・和はお金持ちの天才美少女で、かつ努力の人でもある姫川亜弓タイプ。1巻ではまずこの2人の心の交流がじっくりと描かれていくんですが、どちらも欲求や目的がはっきりした人間らしいキャラなので、やりとりに説得力があります。

だからこそ、微百合な部分がより際立ってくるんじゃないかなあ。咲と和が全国大会に行く約束をして指切りするシークエンスなど、単に2人の頬染めた表情がかわいらしいだけじゃなくて、お互いの内面が響き合う名場面になっていると思います。恋愛色こそ少なめですが、薄っぺらいキャラを適当にイチャイチャさせるだけの百合漫画とはまったく違う深さがあり、楽しく読めました。

まとめ

一見突飛な設定でありながら、実はかなり手堅いつくりの友情バトル漫画。百合については巷で言われるほど濃くない気もしますが、あらゆるバディものはバディの仮面をはがせばラブストーリーなので、これで全然OK。次巻以降も楽しみです。