石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『咲-Saki-(2)』(小林立、 スクウェア・エニックス)感想

咲 Saki (2) (ヤングガンガンコミックス)

ますます異次元、でも展開は堅調

女子高生麻雀バトル漫画、第2巻。県予選決勝の先鋒戦までが描かれます。相変わらずスポーツ漫画と萌え漫画の文法を合体させた異色作でありつつ、キャラの見せ方や場の盛り上げ方は正攻法の力強さを維持。百合な気配も保たれており、面白いですこの漫画。

「風越女子だ!」「龍門渕が来たぞ…ッ!」

冒頭の県予選会場の場面からしてスポーツ漫画そのもの。強豪校の登場にいちいち観客がざわめき、それぞれの強さを勝手に解説してくれるあたり、まるでバスケ漫画や柔道漫画のよう。競技が団体戦で、先鋒・次鋒・中堅・副将・大将がそれぞれ半荘ずつ戦うという設定も柔道っぽいですね。マスコミが取材に来ていたり、「部員80人を擁する強豪」校があったり、全国の「1万人以上の高校生が夏の大会を目指して」いたりと、どうやらこの世界の麻雀はただのスポーツではなく、かなりの人気スポーツである模様。この異次元っぷりが、相変わらず面白すぎ。

異様な男女比&年齢比

大会が始まってみてびっくり。どの学校も女子しか参戦してません。女子大会と冠がついているわけでもなく、女子校オンリーの競技でもない(咲の学校は共学です)はずなのに。さらに、これだけ大きな大会という設定なのに、一部を除いて顧問やコーチなどの大人キャラが存在しないことにもびっくり。モブはともかく、名前がある男性キャラは咲のクラスメイトの須賀のみ、大人キャラは藤田プロと風越の久保コーチ(ともに女性)のみだと言えば、この極端さが伝わるでしょうか。

この異様な男女比&年齢比は、まさしく萌え漫画のセオリー通り。よくここまで堂々と「ドキッ! 丸ごと制服 女子高生だらけの麻雀大会」路線を貫いたものです。なぜ女子高生ばかりなのかということについて、一言も言い訳がされていないところにも感服。そんなの「その方が面白いから」に決まってるんだから、今さら説明はいらないんですよね。

展開は正攻法

1巻と同じく、設定は突飛なのにストーリーの進め方は王道中の王道。たとえば前述の観客たちが強豪校の説明を始める場面で、咲は何をしてると思います? みんなとはぐれて、べそをかきながら場内をさまよってるんです。

状況説明というのは、物語の背景を知る上では必要でも、読者にとっては退屈なもの。そこで咲が迷子になるという小さなサブプロットを入れ、読者が「咲はどこにいるんだろう」「大丈夫だろうか」「うわ、なんかすごそうな人たちとすれ違ってる!」とハラハラしている間に説明を済ませるという手法が採られているわけ。すれ違いでの場面でも他校の説明ができて、一石二鳥。定番ながら効果的なやり方です。

映画『プリティ・ウーマン』でエドワードが父を憎むようになった理由をヴィヴィアンに説明する場面を思い出してください。どうしてあれがバスタブの中でヴィヴィアンに後ろから抱きしめるようにして洗われている最中の告白なのかというと、「観客は説明台詞なんかに興味がないから」に尽きます。だからこそ、観客の注意がスポンジでなぶるように洗われるリチャード・ギアの胸や、ジュリア・ロバーツのあの「私の脚はお尻からつま先まで44インチ(以下略)」という名台詞に惹きつけられている間に説明が終わるようになっているわけ。『咲』2巻冒頭の工夫も、基本的にこれと同じだと思うんですよね。

ちなみに団体戦での各キャラの性格や変化の描き分けに関しても、「行動を通じてキャラを語る」という鉄則中の鉄則が律儀に守られており、群像劇として隙が無い印象。やっぱりこれ、「一見イロモノ、実は実力派」な漫画だと思うなあ。そりゃ、人気も出るはずだわ。

百合について

新登場キャラ、風越女子の美穂子・華菜ペアにはジャパンの誇るsenpai/kohaiシチュエーションの百合っぽさが確実にあり、今後の展開に期待してます。メインカップルについては、和の表情がいいですね。咲のことを考えると自動的に頬を染めたり目の表情を和らげたりしてしまうあたり、どう考えても百合。

まとめ

いよいよ大会が始まり、物語が大きく動き出す巻。ケレン味のある世界観の中、安定の手腕でドラマが紡ぎ出されています。キャラの魅力も百合のうまみも快調で、楽しい1冊でした。

咲 Saki (2) (ヤングガンガンコミックス)

咲 Saki (2) (ヤングガンガンコミックス)