石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『咲-Saki-(9)』(小林立、 スクウェア・エニックス)感想

咲 Saki (9) (ヤングガンガンコミックス)

サクサク進むもシナリオ弱し

麻雀百合漫画、第9巻。全国大会第2戦副将戦スタートまで。県予選よりサクサク進行する反面、キャラの危機の作り込みが甘いような。これまで常に高い構成力を維持してきた作品だけに、この甘さはちょっと意外。百合やオカルトも控え目で、おとなしやかな巻。

シナリオのここが今ひとつ

久が中堅戦前に突然緊張し、その後突然調子を取り戻す過程が説得力に欠けると感じました。どちらも明確なターニングポイントがなく、「とりあえずピンチを作らないと話が盛り上がらないからなんとなくピンチにして、なんとなく元に戻してみました」風なんだもん。

「8巻での地元の皆さんの応援がプレッシャーになった」という解釈も不可能ではないとは思うんですよ。だとしてもあの応援シーンはただのセットアップなのであって、そこから久が緊張状態に陥るためのきっかけがもうひとつ必要だった気がします。絶不調から浮上するためのきっかけも、本人の内面の自問自答だけというのは弱すぎるんじゃないかと。何か小さいサブプロットを作ってぶつけるとか、もっと強烈な敵に直面させるとか、そういう仕掛けは出来なかったのかしら。ページ数の都合なのかしら。

あと、わざわざ別キャラ(まこ)に、

勝手に一人でおかしゅうなって…
勝手に一人で復活して…

と解説させた(p. 111)のも悪手だったと思います。キャラにお話のほころびの尻ぬぐいをさせたら、余計に粗が目立っちゃうじゃないですか。変にフォローを入れず、しれっと続行させた方が、まだ傷は浅かったんじゃないかなー。

百合は控え目

ひとつの椅子でふたりくっついて座って「充電」する(胡桃と白望)とか、膝枕(霞と小蒔)とか、そういう身体的な接触はあるものの、それだけで百合だとはあたしは特に感じなかったです。むしろ、小鍛治プロのお昼が会場の弁当だと知った福与アナウンサーが、

じゃー私もお弁当にする!

と間髪を入れず言い切る場面(p. 73)の方がよほど百合っぽい気がしました。百合に必要なのは身体的な近さより心の近さだと思うので。逆に言うと、この巻でペア間の心理的距離の近さを感じさせる場面はここが最高峰なので、百合としては全体的にマイルドだという印象を受けました。

オカルトも控え目

神代小蒔が依り代となって何やら降ろしていたり、薄墨初美がボゼの仮面をつけて謎のオーラを発していたりはするものの、闘牌でのオカルト表現は県予選より控え目。まるで一般の麻雀漫画のよう。しかし八尺様かと見まごう姉帯豊音の存在感は見過ごせないし、ひょっとしてこれは今後の爆発的展開に向けてタメを作っている段階なのでは。ならば、これはこれで全然アリです。

まとめ

『咲-Saki-』にしてはややパワー不足の巻かと。百合やオカルトがおとなしめなのはよしとしても、久の絶不調から奮起までの流れの弱さは残念でした。キャラのモノローグを追うだけじゃなく、もう少し行動の側面なり詳細なりを見せて、ひねりを作って欲しかったです。

咲 Saki (9) (ヤングガンガンコミックス)

咲 Saki (9) (ヤングガンガンコミックス)