石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『あたしの彼女』(森奈津子、徳間書店)感想

あたしの彼女 (徳間文庫)

あたしの彼女 (徳間文庫)

両性愛者とオナニストの百合官能コメディ

オナニー、SM、レズビアニズムが乱れ咲く、『先輩と私』系エロティック小説。百合オンリーの内容ではなく、美少年をいたぶる形の男女エロも登場するのですが、それも豊かな官能の一環として抵抗なく楽しめました。ギャグも名言頻発で実によかった。

「トッピング全部乗せ」的な多様さ

以下、18歳のバイセクシュアル主人公・沙絵による、あらすじ紹介モノローグ(p. 183)より引用します。

オナニストの女の子に恋してしまったバイセクシュアルのあたしが、彼女の目の前で、きれいな男の子をいたぶりながら犯したり、美しいレズビアンに抱かれて感じまくったりしながら、彼女のオナニーのオカズにされる

はい、こういう物語です。「きれいな男の子を~」の部分で「百合に男はいらん」とアレルギー反応を起こす人もいるかもですが、あたしはこれ、「トッピング全部乗せ」的な多様な性愛描写の一環として抵抗なく読みました。またこの美少年エイジがいいんですよ。けなげで人なつっこくて、それでいてどこか変人で。そして、沙絵がそんなエイジをあの手この手で陵辱しつつ、心情面では常にオナニストの恋人・花野に焦がれ続けるという展開はまさしく百合。女しか出て来ない百合ものよりいっそう激しく百合。もうこれで十分じゃね? 女性同士のセックスシーンは、それはそれでたっぷり用意されていることだし。

エイジは実はお料理上手でもあり、沙絵と花野のためにせっせとお弁当を作って持ってくるのですが、常にこまごまと盛り合わせてあるそのお弁当が実に象徴的だなと思いました。茶めしの上に「鶏の唐揚げ、ゆで卵、かまぼこ、きんぴらごぼう、いんげんのゴマあえ」をのっけたものとか、五目いなりとゴマ入りいなり、大葉入りいなりを取り揃えたいなり寿司弁当とか、いちいちバラエティ豊かでおいしそうで、まるでこの小説のエロ描写みたい。人によってどの具材が好きかは違うだろうけど、どれを好きでもいいし全部好きでもいいし、あれこれつまんでみるうちに食わず嫌いが直って新しい扉が開けるかも……という、そんな懐の深い官能小説なんですよこれは。

笑いもよかった

こまやかでいじらしく、かつドエロな行為が続く中、やにわに笑いの要素が飛び出すところが、さすがは森奈津子作品です。前後の文脈が肝心なのでこの面白さをくまなく紹介するのは難しいのですが、たとえばある官能的な行為を成し遂げた直後の沙絵のこんな台詞(p. 171)とか、死ぬほど笑いました。

人類にとっては小さな一歩だが、我々にとっては大きな飛躍だ!

よりにもよってここでアームストロング船長(の、パロディ)かいっ! さらに、そのほんの6ページほど先には、こんな会話が。

「今日び、『変わっちゃった』とか言って泣く奴なんて、処女喪失直後の女にもいないぞ! おまえは男乙女か? 乙女セクシュアルか?」
「男乙女! 乙女セクシュアル! なんか、それって、新しい!」
花野は、「日本の夜明けぞ!」にも匹敵する力強さで、目を輝かせて言った。

「日本の夜明け」て、今度は鞍馬天狗か、それとも坂本龍馬かっ!?

まとめ

多様なエロスの中に笑いを効かせた、上質の娯楽作品。上記のお弁当のたとえで言うなら、あたしにとってはこの小説のメインディッシュはやっぱりレズビアンエロスだと思います。具体的には肉食系バリタチレズビアンの美登里さんが活躍する部分ね。でもそれ以外の、いわばきんぴらやいんげんに相当する部分もおいしくいただけたし、ギャグにも大いに笑わされたし、予想外のオチには目からウロコの思いでした。本体わずか600円でこの充実っぷりは凄いわー。完全にモトが取れたわー。