石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『Picture Perfect?』(Kordale Lewis, Landmark publishing)感想

Picture Perfect? (English Edition)

ネットを席巻したゲイ・ダッドの感動的メモワール

以前のエントリ「黒人ゲイパパとその子供たちのキュートなインスタグラムが話題に」で紹介した、コーデイル・ルイス(Kordale Lewis)さんによるメモワール。平易な英語でサクサク読めて、しかも感動的。

有色人種のロウワー・クラスのLGBT視点

本書の最初の85パーセントがコーデイルさんの半生記で、残り15パーセントがパートナーや子供たちとの家庭生活の話です。従って、子供のいるゲイ・ファミリーの話だけが読みたい人には不向きかもしれません。でもこの最初の85パーセントこそがきわめて重要だと、あたしは考えます。

読み出して数ページで思ったんですよ。「これはジャネット・モックと同じ世界だ」と。コーデイルさんはシカゴのロウワークラス出身、両親は離婚していて母親はクラック中毒、母親の男からは性虐待を受け、きょうだいともども別々の親戚の家に預けられたり、再び母親と暮らしたりしながら成長。人種差別とゲイ差別に直面しながら、ゲイの親友をメンターとして必死に生き延びてきたティーン時代の彼の姿は、ゲイとトランスジェンダーという違いはあれど、ジャネット・モックの自叙伝『Redefining Realness』との共通点がものすごく多いです。

こういうハードな生い立ちを持つコーデイルさんだからこそ、彼が現在大事にしている「家族」の重みがより響いてきます。薬物問題がらみの離散家庭出身であることも、虐待被害者だということも、同性愛者であることも黒人男性であることも、どれもみな「子育てには向かない」というステレオタイプを押しつけられがちなことばかり。なのに、コーデイルさんはそれをはね返して、あの写真の幸せをつかみ取ったんです。だからこそ、彼が本書の後半で言うこの台詞(訳はみやきちによります)がいっそう読者の胸に刺さるわけ。

もしふたりの黒人ゲイ男性が子供を育て、世話することができるのなら、肌の色やジェンダー、人種が何であれ、誰でもそうできるはずだ。

現代では子供のいる同性カップル家庭も増えつつありますが、「リッチで教育水準の高い白人ゲイセレブが代理母出産で子供を作りました。よかったね、パチパチ(拍手)」みたいな美談は、「はいはいセレブは何でもできるのねー」みたいに例外扱いされて終わっちゃう可能性があると思うんです。でも、この本はそうしたサブタイプ化を許しません。それどころか、もっと根源的なところからステレオタイプを揺さぶり、「家族」とは何かを問い直させるだけの力を持ってる。そこがもっとも印象的なところでした。

ネットからの反響と、それに対するレスポンス

コーデイルさんの家族写真がネットを席巻したのは2014年1月のこと。8月現在Instagramのアカウントに10万人以上のフォロワーがいることから見ても、いかに大きな話題になったのかたやすくわかると思います。

この本の後半15パーセントでは、こうした写真(や、それを報じたニュース)に対しどのような反響があったかについても触れられています。ホモフォビックなコメントが少なくなかったというのはまだわかるのですが、驚いたのが、異性愛者のみならず同性愛者にも憎悪に満ちた意見を寄せた人がいたということ。どこにでもそういう人はいるのねえ。

ネガティブコメントの中には「殺す」という脅迫すらあり、1度はアカウント削除も検討したとのこと。しかし、この写真をポジティブに受け止めてくれた人もいること、とりわけ、この写真でゲイへの考え方が変わったという人もいることから、そのままにしておくことにしたんだって。後者に関しては、これまで自分の子どもに向かってゲイの悪口を言っていたという人から、「写真を見て涙が出た、あなたたちも同じ人間で、異性愛者カップルと同じぐらい子供の面倒が見られるのだとわかった、これからは同性愛者のことを非難しないよう頑張る」(大意)というメッセージが寄せられたのだそうです。これ、ものすごく大事なことだと思います。巻の前半でコーデイルさんの親友、アンドリューさんに起こったことを読んだ人なら、なおさらそう思うはず。

その他

冒頭にも書きましたが、英語が平易でほんとうに読みやすいです。それでいて内容はおもしろく、ぐいぐい読み進めたくなってしまうので、一般的なペーパーバックの半分ぐらいの時間で読了できます。英語学習中の方にもおすすめ。

まとめ

ゲイ・ファミリーのバイラル写真の背景を率直に綴った、パワフルなメモワール。ステレオタイプをぶちこわし、「家族」という語を再定義する良書だと思います。性的指向を問わず、大人から子供まであらゆる人に読んでほしい1冊です。英語もかんたんだし、夏休みの読書にどうよ、そこの高校生?