石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的メモ。

『Does This Baby Make Me Look Straight?: Confessions of a Gay Dad』(Dan Bucatinsky, Touchstone)感想

Does This Baby Make Me Look Straight?: Confessions of a Gay Dad (English Edition)

ゲイ男性の育児エッセイ。いささか鼻につく部分も

俳優/プロデューサー/作家のダン・ブカティンスキーが、ゲイカップルとしての育児経験を綴ったエッセイ集。面白い箇所もあるものの、女性器への嫌悪感が延々描写されるところや、旧弊なジェンダー意識、そしてルッキズムにはうんざり。1度読めば十分かな。

面白かったところ

当事者ならではの視点が新鮮でした。理解があるふりをしながら差別的なことをツルツル言い出す人たちの話とか、面白かったですよー。逆に筆者本人の中にあった「ゲイ・ファミリーだと知ったら差別される」という偏見をぶっとばしてくれたラティーナのナニーたちの話も、目からウロコで楽しかったです。

読んでいてもっともドキドキしたのは、この家族に外から投げつけられる偏見やホモフォビアのエピソードではなく、お子さんからパパに向かって「ママが欲しい」と言われてしまうくだり。男性同士のカップルが子供を持つにあたって、究極の問題ですよね、これ。しかしながら、著者と同じく子育て中のゲイパパ友達・スコットが、ここで実にいいことを言うんですよ。あたしはすごく納得したし、「男が/ゲイが育児だって!? 子供の気持ちを考えろ!!」とか鼻息荒く言ってる人は、この章(第24章『Tangled』)を100回ぐらい読むといいんじゃないかと思います。

気になったところ

ところどころにミソジニーと、ジェンダー役割妄信と、ルッキズムの匂いがするんですよこの本。そこがあたしにはちょっと合いませんでした。

まず、何度も何度も嬉しそうに膣への嫌悪感について述べまくり、それがあたかもすばらしいギャグであるかのようにふるまっているところが、あまりにも「ゲイのミソジニー」っぽくて嫌でした。また、自分が昔男らしさを期待されて苦痛だったと主張する一方で、女の子にはドレスだのバービーだのの超ベタな「女らしさ」のイメージをおしかぶせて平気な神経も理解できません。娘さんのブロンドの髪を、自分たち父親が好き勝手にいじれるフェミニンなオモチャ扱いしてウハウハしているところもキモチワルイです。この本の何か所かで触れられている「母性」へのこだわりも、結局こういう硬直したジェンダー意識の枷による自縄自縛であるように見えてしまい、ついていけませんでした。あからさまに女性器を毛嫌いしながらそこまで執拗に「女性的なるもの」に執着する意味がわかんないよ、まったく。

他には、肥満への嫌悪・恐怖が強調されがちなところや、自分のことはハンサムだの若いだのと持ち上げるわりに他人の外見には容赦がないところも気になりました。他の親たちを分類してあげつらう態度を見ても、なんというかこう、小学校のクラスルームの、女王様気取りの意地悪女子みたいなんですよ。それが面白いと思える方もいらっしゃるのでしょうが、あたしには合いませんでした。

まとめ

ゲイ・ファミリーの直面する問題を当事者視点で描いていくところは面白かったです。しかし、ところどころ鼻につく部分もあり、全編通じて最高とは言いがたい本でした。ゲイ・ファーザーの手記なら、先日感想を書いた『Picture Perfect?』(Kordale Lewis, Landmark publishing)の方がおすすめです。

Does This Baby Make Me Look Straight?: Confessions of a Gay Dad (English Edition)

Does This Baby Make Me Look Straight?: Confessions of a Gay Dad (English Edition)