石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『図解雑学 ジェンダー』(加藤秀一・石田仁・海老原暁子、ナツメ社)感想

ジェンダー (図解雑学)

濃密にして明快な解説書。セクマイについての章もあり

性別、ジェンダー、性的マイノリティ等について網羅的かつ明瞭に解説する本。図表やイラストのわかりやすさは、塾や学校の板書授業のお手本にしたいほど。見開き2ページでワンテーマが完結するため読みやすく、中高生から大人まであらゆる人におすすめ。

15年来の謎、氷解す

性別とジェンダーの違いについて、一般的には、

  • 生物的な男女の違いが「性別」("sex")
  • 社会的・文化的に形成される男女の差異が「ジェンダー」("gender")

……のように解説されることが多いと思います。しかしながら自分には、2000年頃『東大で上野千鶴子にケンカを学ぶ』(遥洋子、筑摩書房)で、この考え方はもう古いとされている記述を読んだおぼえがあるんです。「何がどう古いんだろう、最新の考え方はどうなんだろう」と疑問に思っているうちに早15年。その答えが、この本の中にあったよ!!

結論を先に言うと、生物学的な性別(セックス)が男女の2種類に分けられるという発想がそもそも非科学的なんですね。「外性器が男女どちらともつかない形で生まれてくる人は一定数いる」(p. 16)し、性染色体にしても実は「46, XX」「46, XY」の2種類だけではなく「45, X」、「47, XXY」などさまざまな型があります(p. 18)。さらに、ホルモンのはたらきで、たとえば染色体がXX型でも男性型の生殖器系が発達することもある(p. 18)のだそうです。したがって、次のようなことが言えるわけ。

身体を科学的に厳密に調べれば調べるほど「性別は2つしかない」という根拠は薄らいでいくのである。

「生物学的な性差」という知識もまた社会的にかたちづくられたものであり、セックスとジェンダーを厳密に区別することはできない。

この説明でもピンと来ない方はぜひ本書p.25の図解をごらんになってください。あたしゃあれ見て「エウレカ!!」と叫びそうになりましたよ。『図解雑学 ジェンダー』は2005年初版発行なので、「出た時点ですぐ読んでおけば、その後10年も疑問を抱えたまますごさずに済んだのに……!」と悔しく思っています。

性的マイノリティについて

LGBTやインターセックスなど性的マイノリティの話題は、おもに6章「多様な性の世界」で取り上げられています。パターナリスティックな「少数者を受け入れてあげましょう♥」路線ではなく、統計データや科学的知見を用いて「今、何が問題なのか」を端的に解説していく筆致がとてもよかったです。

たとえばメディアによる差別的表現の影響について論じるページでは、マス・コミュニケーション論の議題設定説を紹介した上で実際の雑誌記事タイトルを例に挙げ、メディアの用意した差別的な構図(『性的に放埒で、異性愛者を誘惑しようとする同性愛者vs同性愛者に襲われるリスクのある異性愛者』など)が情報の受け手のイメージに浸透していく過程が示されています(p. 162)。これ、漫画等における「うわ! こいつホモかよ、みんな尻を隠せwww」のようなギャグ(のつもりの)表現がなぜ「フィクションだから、ファンタジーだからいいじゃん」では済まされないのかという話にも通じると思うんですよね。BLや百合の差別的表現にモヤモヤしている方にとって、大いに参考になるのでは。

この章の中で、他に特に面白かったテーマはこのあたり。

「『性的マイノリティに寛大な私』は本当はどこまでリベラルなのか」(p. 164)
性転換手術の是非を問う質問と「知人が性転換手術を受けたら」という問いへの反応の違いを例に、日本の「リベラル」な人々の「私の快適さを損なうかどうか」という判断基準が指摘されています。
「キリスト教社会では同性愛は神との関係で語られる」(p. 170)
現在のキリスト教圏での「性的指向は生まれつき」という考え方について、歴史的な流れから解説するページ。
「同性カップルに婚姻の自由を認めさせないように主張する側の言い分は正しいか」(p. 176)
人類学や社会学の「婚姻は、社会が保障した財の分配ルール」という知見を紹介した上で、同性婚が認められないことによる具体的不利益が例示されます。
「トランスジェンダーのあり方もさまざまである」(p. 180)
トランスセクシュアル、トランスヴェスタイト、トランスジェンダーの概念の違いや、医療化による序列・線引きの問題点を解説。

その他

上記以外でもとにかくジェンダーに関係する話題全般(古代オリエントの売春から『おいらん』の語源、ポルノグラフィ、夫婦別姓まで実にさまざまです)が広くカバーされており、内容も濃密。どのテーマでもちょっとした大学の一般教養の授業に匹敵するぐらいの知識が得られると思います。それでいてどのページも図版や表での切り口が実にわかりやすいし、少しでも難しい漢字にはこまめにルビがふってあったりするしで、中高生でも余裕で読めそう。

一方、性的マイノリティの話題に特化した本ではないためか、LGBT+の話は主に同性愛・トランス(ジェンダー/セクシュアル/ヴェスタイト)・インターセックスに集中しがちです。それ以外の性のありようについては、先日紹介した『LGBTってなんだろう? からだの性・こころの性・好きになる性』(藥師実芳他著、合同出版)の方が詳しいと思います。

注意すべき点としては、なにぶん10年前の本なので、法律に関する記述(『性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律』や同性婚についてなど)は既に古くなっているものもあるということ。このあたりは、新しい資料を参照する必要があるでしょう。逆に、本書の図解を見て「うわ、10年前はスペインもポルトガルもフランスも英国も同性婚できなかったのか……!」と感慨にひたるという楽しみ方も、もちろんありです。

まとめ

とっつきやすいのに内容が深い、ジェンダーとセクシュアリティの入門書。勉強の手始めにも、豆知識のネタ集めにも、何かわからないことがあったときの調べごとにも使える秀逸な1冊だと言えます。2005年初版の本であるため、情報がいくらか古い(特に法律関係)部分もありますが、そこをさっぴいても超おすすめ。学校の教科書みたいな地味~な表紙にだまされず、ぜひ手に取って中身を見てみてください!