石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

「真実の愛がいつも『王子様』がらみとは限りません」ブラジルの小学校教師、アナ雪題材の授業で話題に

【アートデリ】アナと雪の女王のファブリックボード dsn-0250 dsn-0250

ブラジルの小学校教師、サンドラ・Pさん(仮名)が、おとぎ話を素材にしてジェンダーや同性愛に関する授業をおこない、話題となっています。授業に使われたのは『アナと雪の女王』、『眠れる森の美女』、『マレフィセント』など。

詳細は以下。

This Teacher Is Using Fairy Tales To Teach Kids About Gay Rights and Gender Equality

サンドラさんは以前に、ホモフォビアについての授業でゲイの王子が出てくるおとぎ話を使ったことがあり、そこからこの「おとぎ話を違った角度から見る」(“Um outro olhar para os contos de fada”)というプロジェクトを思いついたのだそうです。このプロジェクトは、学校にも支持されているとのこと。

このプロジェクトでは、たとえば4年生のクラスで「古典的なおとぎ話バージョンの『眠れる森の美女』を読んだ後、映画『マレフィセント』を見て、両者を比較する」なんてことをやるのだそうです。子どもたちに自由に議論させると、「お母さんの愛だって真実の愛じゃないの?」「どうして女の人を救えるのは男の人だけなの?」などの質問が飛び出したとのこと。子どもたちはさらに、こんな質問についても考えました。

「眠っている王女様にキスするのは、正しいこと?」

結果をまとめたポスターがこちら。(ポスターの全体像は元記事で見られます)

ポスター左下のグラフによれば、「はい」と答えた生徒が2名、「いいえ」と答えた生徒が13人。その右側に質問への正解が書かれており、訳すと「どんな人だって、眠っている間に知らない人にキスされるいわれはありません。それは犯罪です!」。

考えてみればその通りなんですよね。同じ『眠れる森の美女』でも、ディズニー版ではオーロラ姫は眠りにつく前にフィリップ王子と出会い、恋に落ちたことになっています。フィリップ王子を(一応は)性犯罪者にしないための工夫です。でも、クラシカルなおとぎ話(例:オーストリアの民話『長い眠り』*1)だと、若者が意識のない娘さんの唇を一方的に奪っており、どう見ても犯罪。「幸せにしてやるんだからいいじゃないか、女も喜ぶはずだ」なんてのは痴漢かストーカーの発想ですよ念のため。

他に、『アナと雪の女王』と『マレフィセント』を組み合わせた、こんなポスターもおもしろいです。

ポスターの文句を訳すと、こんな。

おとぎ話を別角度から見ると……真実の愛が、いつも「王子様」がらみであるとは限りません!

よくぞおっしゃってくださった。「女はただひたすら受け身で王子様を待っていればいいのだー、それ以外では幸せになれないのだああああ」みたいな脅迫は、もうたくさんですから。だいたいこの脅迫、事実に反してますし。

さて、上記のような話をすると「おとぎ話を検閲するのか!」とか「『男が女を幸せにする』話を否定するのか! 男の居場所がなくなる!」のような反発がきっとあると思います。そのようなご意見をおっしゃる方は、残念ながら「おとぎ話は時代と場所に応じてどんどん変容し、無限のバリエーションが生まれる」という事実をご存知ないのでは。

たとえば『眠れる森の美女』は、ジャンバティスタ・バジーレ(1575年? - 1632年)のバージョンでは、眠っている姫を通りすがりの王様(しかも既婚者の)がレイプすることになっています。でも、今はもうそのバージョンは流行ってませんよね? 「眠っている女性をレイプするのは犯罪」、「不倫でしかもレイプしといて『末永く幸せに』もないもんだ」という考え方が主流になったからですよ。現在ではそこからさらに進んで、「眠っている女性に見知らぬ人が勝手にキスするのは犯罪」という考えが一般的になっているというだけの話。痴漢や強姦の何が悪いのか理解できない方々や、「女の幸せ=男に欲情され娶られること」という観念が捨てきれない方々には、永遠に理解できないだろうとは思いますけど。

個人的にサンドラ先生の試みですごくいいなと思うのは、昔のおとぎ話を子どもに見せまいとするのではなく、ちゃんと見せた上で多角的にツッコミを入れる力を養おうとしているところ。このツッコミ力、セクシズムのみならずあらゆる文脈で押し付けられる「〇〇しなければ幸せになれない」という呪いを解くのに、きわめて有効だと思います。こういう授業が世界中で増えればいいのになあ。

*1:日本民話の会編訳. (1991). 『世界昔ばなし(上) ヨーロッパ』. pp. 167-172. 東京:講談社.