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石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

ドラマ『Sense8』(センス・エイト)シーズン1感想(追記あり)

Sense 8 Main Theme (Netflix series)

NetflixオリジナルのSFアクションドラマ

世界各地にいる赤の他人8人の感覚が突然つながり、何者かに追われ始めるというサスペンスフルなSFアクションドラマ。メインキャラのトランス女性「ノミ」とその女性の恋人「アマニタ」の描写がすばらしすぎて、全12話を一気に見てしまいました。製作は『バウンド』『マトリックス』のウォシャウスキー姉弟で、配信は2015年秋から日本でもサーヴィス開始予定のNetflix。

ノミとアマニタのここがすごい

まずね、すんごくかわいいカップルなんですよ、このふたり。ファンが作ったトリビュート動画を観れば一目瞭然。

ドレッドヘアの方がアマニタ*1(フリーマ・アジェマン)で、金髪の方がノミ(ジェイミー・クレイトン)です。そして、このアマニタが! アマニタが最高なんだよー! センセイト("Sensate"、テレパシーとエンパシーで感覚をつなげ、互いの知識や技術を使える人々のこと)の能力を持たず、腕っ節も決して強くない彼女ですが、何があっても恋人を守るという決意はダイヤモンドより強固。号泣ものの決めぜりふが何度もある上に、勇気と行動力もピカイチです。シーズン全体を通じて最高のヒーローはアマニタだとあたしは勝手に思っています。

一方センセイトのトランス女性、ノミの方はというと、これがまた画期的なキャラでねえ。ノミ役の女優ジェイミー・クレイトン自身によるこの説明が、たいへん的を射ています。

「性別移行を話の中心にしないトランスのキャラクタは、これまで映画にもテレビ番組にもひとりもいなかったんです」とジェイミーは語った。「ノミが最初なんです。ノミの物語は、彼女がトランスだという事実とはまったく関係ありません。ただ単に彼女がトランスであるというだけ。ノミは自分の人生を生きていて、恋人がいて、仕事もあって、それからこの驚くべきクラスタ(訳注:感覚がつながったグループのこと)に突然放り込まれたんですよ。で、誰も(ノミがトランスであることを)気にしないんです。というのは、つまるところ、彼女がトランスだということを気にするのはおかしいから。彼女は人間なんです。わーい!」

“There has never been a trans character in a movie or on a show before whose story did not revolve around transition,” Jamie said. “Nomi is the first. Her story has nothing to do with the fact that she’s trans. She just is. And she’s living her life, and she’s in love, and she has a job, and she’s a whole complete person who is then thrust into this amazing cluster. And no one cares because, at the end of the day, we shouldn’t care that she’s trans. It doesn’t matter. She’s a human being. Woo!”

単にトランスジェンダー(またはトランスセクシュアル)が主要キャラをつとめるフィクションというだけなら、『ボーイズ・ドント・クライ』もあれば『トランスアメリカ』もありました。『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』も。これらの作品では、どれも「性別を変えること」または「トランスであること」が話の根幹にかかわっています。だけど、ノミの場合はそうじゃないんです。

ノミはサンフランシスコ在住の政治ブロガー兼ハッカーで、知性の冴えはトマス・アクィナスを引きながらプライドについて書く場面(第2話)に顕著。愛するアマニタと守り守られながら、卓越したハッキング能力を武器に戦う頭脳型キャラです。トランスジェンダーであるということはあくまで彼女の一側面にすぎず、たとえて言うなら「右利きか左利きか」ぐらいの意味しか持っていません。ノミが出くわすトランスフォビアの場面はどれもリアルそのものですが、決してそこが話の中心ではないんです。このあたり、自らもトランスジェンダーであるラナ・ウォシャウスキーの匙加減が完璧だと言えましょう。

そうそう、蛇足ですけどノミ役のジェイミー・クレイトンもまたトランスジェンダーなんですよ。トランスの人がトランス役を演じているという点で、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のラヴァーン・コックスに次ぐ快挙だと言えます。トランスキャラを肯定的に描くTVドラマがまだまだ少ない(被害者役や悪役ばっかりで、まるでひと昔前のゲイキャラみたいな扱いなのよ!!)中、新たな地平を切り開くのはこうしたネット配信のコンテンツなのかもしれません。

『Sense8』の、他のここがすごい

思うにこのドラマって、『オーファン・ブラック』ばりのSF設定に『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(OITNB)なみの多彩なテーマを盛り込んで、さらに一段階進化させたものなんじゃないかと思うんです。突然世界じゅうに仲間ができて謎の組織に追われるというところまでは『オーファン・ブラック』と同じ。しかしそこで「離れた場所のあかの他人と感覚を共有し、スキルを借りられる」という新機軸を加えたことで、アクションの幅が飛躍的に広がっています。そして、ジェンダーやセクシズム、宗教、貧困、性的指向など今日的な要素を掘り下げていくところはOITNB的でありながら、世界各地(サンフランシスコ、シカゴ、ロンドン、アイスランド、ベルリン、メキシコシティ、ナイロビ、ソウル、ムンバイ)でのロケを生かした話づくりはどこから見ても斬新そのもの。単なる「今流行ってるもののいいとこどり」ではなく、その先を行くものがしっかりあるわけです。

なお、上記のうち特に感心したのは、ジェンダー描写のバランスのよさ。センセイト(複数形だとセンセイツ)の8人は男4人女4人なのですが、それぞれの特技が必ずしもジェンダー・ステレオタイプに依拠しないんです。8人のうち、素手格闘で最強なのは武術使いの華奢な韓国娘、サン(ペ・ドゥナ)。その一方で、マッチョなメキシコ人俳優リト(ミゲル・アンヘル・シルベストレ)は筋肉よりむしろ機転と演技力で危地を突破するタイプだったりします。ストーリーラインこそ古典的な「囚われの姫君」パターンを踏襲していたりする(特に終盤)のに、それがあまり陳腐に見えないのは、こうした現代的な設定が生きているからでは。

ちなみに伏線の効かせ方もみごとの一言で、特に「最初一種の微笑ましいギャグとして登場した要素が、のちに人間の勇気や気高さの象徴として機能する」というパターンがきわだっています。具体的には、「ジャン=クロード・ヴァン・ダム」や、「映画『コナン・ザ・グレート』の名台詞」など。こうした伏線の組み込み方のうまさは、シーズン全体を一気に作るNetflixドラマならでこそ。

これは『LGBTドラマ』なのか?

ノミはトランスジェンダーでかつ同性の恋人がいるし、先述のリトはゲイです。しかし、だからと言って本作を『LGBTの』ドラマと呼ぶのはちょっと違うような気がします。メインキャラのひとり、ウィル役のブライアン・J・スミスが、いみじくもこんなことを言ってました。



(訳:『ラナ(ウォシャウスキー)はキャラクタが全員パンセクシュアルだと考えている。僕はそれはすばらしい表現方法だと思う』)

少し補足すると、センセイツの8人は感覚を共有するので、個々の性自認や性的指向の違いは究極的には意味をなさないんですね。実際、第6話にはそれを直接的に示唆する場面が出てくるし、第1話のノミの台詞にも、その遠回しの伏線となっているものがあります。そしてこのことは、本作品の共同クリエイターであるJ・マイケル・ストラジンスキーの以下のような説明ともつながってくると思うんです。

僕たちは、人としての僕らをつなぐもの、未来へ向けてのゴール、家族、そういったものが、僕らを分断するさまざまな障害よりも強いということを信念として持っている。つまり、僕らはバラバラでいるよりも一緒にいたほうが良いということ。今の社会では人々を分け隔てることに多くが費やされている。僕らは異なる場所の人々をひとつにすることについてのストーリーを手掛けたかったんだ。

性自認や性的指向で人を分けるのもまた一種の「分断」。居住地や言語や信条や生物学的性別と同じく、人と人とを引き離すもの。この作品は、そうした分断を超越したところでの人と人とのつながりを描くものであり、したがって「LGBTドラマ」という狭い枠組みの中にはおさまり切らないと思います。そんな懐の広さも、また魅力的です。

まとめ

ノマニータ("Nomanita"、ノミとアマニタのカップル)を眺めているだけで脳内麻薬物質が出まくる大傑作。しかもその上、女性や性的マイノリティーの扱いもフェアだし、世界を股にかけた斬新なアクション(なんたってウォシャウスキー姉弟作品ですからね!)も楽しめるしで、いろんな意味で夢のようなドラマ。まだシーズン2の製作が発表されていないことだけが気がかりですが、きっと作ってくれると信じて待つことにします。

おまけ:日本語吹き替えキャスト一覧

『Sense8』は2015年秋に予定されているNetflix日本対応と共に日本語版がリリースされるようで、2015年8月現在、スタッフロールにはもう日本語吹き替えのキャストが表示されています。主要なキャラだけリストアップすると、以下のようになります。

  • エンジェル(アンジェリカ) 佐々木優子
  • ジョナス 村治学
  • ウィスパーズ 小原雅人
  • ライリー 嶋村侑
  • ウィル 小松史法
  • リト 加瀬康之
  • エルナンド 福田賢二
  • ダニエラ 西島麻紘
  • サン 佐古真弓
  • カーラ 御沓優子
  • ヴォルフガング 坂口周平
  • フェリックス 小林親弘
  • カフィアス 森田了介
  • ノミ 斎賀みつき
  • アマニタ 志田有彩

ノミの声が、青年役のうまさで知られる斎賀みつきさんなところが嬉しいなー。うちではNetflix対応テレビも買う予定なので、今後ぜひ大画面で日本語版も堪能したいと思ってます。日本でもこのコンテンツが人気だとNetflixに知ってもらい、シーズン2を作ってもらわねば!

2015年8月9日追記

上記感想を書いて一晩寝て起きたら、公式からシーズン2製作発表が出てました!

キャストの皆さんからメッセージ。

ミゲル・アンヘル・シルベストレ(リト役)とジェイミー・クレイトン(ノミ役)からのメッセージ。


*1:日本語字幕だと「アマニタ」ですが、英語だと発音は「アマニータ」です。したがってシップ・ネームは「ノマニータ」("Nomanita")。