石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの個人的備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

オレゴン州のアンチゲイなベイカリー、ついに13万5千ドルを支払う(でもまだ訴訟は続く)

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同性カップルへのウエディングケーキ販売を拒否した米オレゴン州のパン屋「スイート・ケイクス・バイ・メリッサ」(Sweet Cakes by Melissa)が2015年12月28日、州から命じられていた損害賠償金13万5千ドルをついに支払いました。ただし、あくまで預託金として。

詳細は以下。

Sweet Cakes by Melissa Co-Owner Aaron Klein Reverses Course, Delivers Check for $137,000 - Willamette Week

このベイカリーは2013年1月27日、宗教的信念を理由として、ローレル・ボウマン(Laurel Bowman)とレイチェル・クライアー(Rachel Cryer)さんというレズビアンカップルにウエディングケーキをつくることを拒絶。ボウマンさんからオレゴン州司法省(Oregon Department of Justice)に苦情申し立てをされていました。

2007年の平等法(Oregon Equality Act of 2007)により、同州では性的指向にもとづいた差別は禁止されています。州の労働産業局(Bureau of Labor and Industries)は2015年7月2日、この販売拒否を違法と判断し、店主のアーロン&メリッサ・クライン(Aaron and Melissa Klein)氏に対し、このカップルの精神的苦痛に対する賠償金13万5千ドルの支払いを命じていました。

アーロン・クライン氏は控訴の意向を示し賠償金の支払いを拒否していたのですが、労働産業局によれば氏は2015年12月28日、利息も含めて13万6927ドル7セントの小切手を同局に提出したとのこと。

しかしながら、この小切手はあくまで預託として提出されたものであって、クライン夫妻はまだ訴訟を続けるつもりのようです。以下、夫妻の弁護団のひとり、タイラー・スミス(Tyler Smith)氏の声明。

「アーロンとメリッサは、この訴訟でのふるまいを含め、生活のすべての要素において忠実に神をたたえています。オレゴン州の法律によれば、彼らの合衆国憲法修正第1条(訳注:連邦議会が宗教・言論・出版・請願の自由を妨げることを禁止した条項)で保証された権利を否定したオレゴン州政府の判断に対し彼らが上訴するのならば、州政府によって科された金額を支払うか、判決の額の借用証書を手にしなければならないということになっています。法律を遵守した上でもっとも安価な方法は、夫妻が控訴審で勝利するまでは別勘定に保管される資金を、オレゴン州労働産業局に払っておくことだったのです」

“Aaron and Melissa Klein are devoted to honoring God in every aspect of their lives, including how they conduct themselves in this litigation. Oregon law requires that as they appeal the Oregon government’s decision denying them their First Amendment rights, they must either pay the amount imposed by the Oregon government, or obtain a bond for the amount of the judgment. The least expensive option to stay in compliance with the law was to pay the Oregon Bureau of Labor and Industries funds that will be kept in a separate account until they prevail in their court appeal.”

まだ勝つつもりだったんかい、この人たち。

同店のケーキ販売拒否事件とその後の訴訟についてはこれまでときどき日本語圏でも報道されていましたが、ボウマンさんとクライアーさんをいわゆる「クレーマー」だと決めつけて店に同情したり、店側の「客を選ぶ権利」を主張したりという反応を結構見かけた気がします。「よその店で買えばいい」「棲み分けろ」というようなきわめて素朴な意見も、いくつかあったような記憶が。情報不足のせいで何か誤解している人も少なくなさそうなので、この機会にこの事件のもう少し詳しいいきさつを書き出してみることにします。以下、出典はThe New Civil Rights Movementです。

  1. スイート・ケイクス・バイ・メリッサのアーロン・クライン氏は、単にケーキの製作を断っただけでなく、聖書を引用して、同性愛者は「嫌悪すべきもの」("abomination")だと面罵していた
  2. このことが周囲に知れ、店の評判が悪くなると(オレゴン州グレシャム市界隈では、差別や偏見は歓迎されません)氏は店舗を閉め、オンライン通販のみの営業に切り替える
  3. さらに、自分たちが受けた苦情申し立ての書類をそのまま(ボウマンさんとクライアーさんの住所氏名を伏せずに)店のFacebookにupして、「同性愛者にウエディングケーキを作らないと言うと、こんなことになる」との文章を添える
  4. 夫妻で何度もメディア(TVなど)に登場し、このカップルを愚弄する発言を繰り返す
  5. アンチゲイな団体が熱狂的にこのお店を支持
  6. ボウマンさんとクライアーさんのもとに、保守派メディアや反ゲイ団体からの非難が殺到。ソーシャルメディアでも叩かれ、殺すと脅迫される
  7. 労働産業局がクライン夫妻に損害賠償(ケーキの販売拒否のみならず、夫妻がメディアの注目を集めて憎悪を煽ったためにレズビアンカップルが受けた精神的苦痛への賠償も含めた金額です)の支払いを命じると、右翼やホモフォーブがさらに騒ぎ、ボウマンさんたちや労働産業局は「同性愛者のファシスト」で、賠償金は「ゲイのファシズムの税金」だと非難

これはお店の「客を選ぶ権利」で保証されることですかね。あたしは違うと思っています。

さらにもうひとつ言うと、このお店、クライアーさんのお母さんの結婚式のときのウエディングケーキを注文した店だったんです。それで味も気に入っていて、自分たちのケーキも頼もうとアポイントメントを取ってお店に出向いたところ、同性婚だと告げたとたんに手のひらを返されたんです。予想外の瞬間にこうしてズガンとやってくるのが差別であって、ことが起こった後に呑気な第三者が「よその店に行け」と唱えたところで、何も解決しやしません。問題の焦点は「同性愛者がケーキを買えるか、買えないか」ではなく、「すべての市民が『頑固な偏見によって縛られることなく、公共の場に入り、買い物をし、食事をし、移動する*1』ことができるかどうか」なんですから。この裁判の決着がいつつくのかは不明ですが、公正な判断が示されるよう、強く願っています。