石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

英歌手「自分のセクシュアリティにラベルは貼らない」→メディアがこぞって「両性愛をカミングアウト」とラベル貼り

Union J

英国のボーイバンドの歌手が男女両方との交際経験があることを公表し、「自分に(セクシュアリティの)ラベルを貼るつもりはない」と発言しました。にもかかわらず複数メディアがこのニュースを「『両性愛の』カミングアウト」として報じ、批判されています。

詳細は以下。

Boyband singer says he doesn’t want his sexuality labelled, media immediately labels him · PinkNews

この歌手は、UK版『Xファクター』出身のバンド「ユニオンJ(UNION J)」のジョージ・シェリー(George Shelley)。彼は2016年2月3日にYouTubeにアップロードした動画で、自身のセクシュアリティについて説明しました。

動画の内容はこんなです。

「ぼくが異性愛者か、ゲイか、バイかということに関するたくさんの憶測を、ネットでずっと読み続けてきました。

「結局全部ラベルの話で、ちょっと時代遅れで、だからぼくは自分自身にラベルを貼るつもりはありません。

「ぼくには愛する彼女がいたことがあり、それは人生の中でもすばらしい時期だったのですが、ぼくにはまた彼氏がいたこともあります」

「ぼくが次につきあおうと決めた相手が女性でも男性でも、その人を愛しているからそうするのだとわかってほしいと思います」

“I’ve been reading a lot of speculation online as to whether I’m, straight, gay or bi.

“It’s all these labels and it’s a little bit old-fashioned and this is why I’m not going to label it myself.

“I’ve had girlfriends that I’ve loved, in amazing periods of my life, but I’ve also had boyfriends.”

“I want you to know that whether I decide to be with a girl next or be with a guy next it’s because I love them.”

そんなわけで、本人は、自分のセクシュアリティについて「ラベルを貼るつもりはない」と明言しているんですね。ところが、このニュースを報じた報道機関の多くは彼にあっさり「両性愛者」のラベルを貼ってしまったようです。以下、PinkNewsでスクリーンショットが公開されている各メディアの見出しを実際に確認(日本時間で2016年2月5日現在)した上で、日本語に訳してみました。

ひどいな、これは。

ジョージ・シェリーが言っている通り、「異性愛者か、ゲイか、バイか」という分類は既に時代遅れなんですよ。現代ではこの分類の前提となっている「人間は男と女に二分できる」というイデオロギーそのものが非科学的*1だと考えられていますし、実際世の中にはパンセクシュアル*2もいれば、ジェンダークィア*3やクエスチョニング*4な人もいます。「異性愛者/ゲイ/バイ」のラベルはあくまで便宜的な呼称にすぎず、すべての人をこの区分でとらえようとするのは生身の人間をクッキー型で切り抜こうとするようなもので、限界があるんです。ましてや、本人の名乗りを無視してまで、男女両方とつきあったことがある/これからつきあう可能性があるのだから「両性愛者」だと決めつけるというのは、よく言って粗雑、悪く言えば暴力的でしょう。

ちなみにPinkNewsのスクリーンショットにはないものの、コスモポリタンUKザ・サンもジョージ・シェリーを「両性愛者」と呼んでますね。BBCは一旦「両性愛者としてカムアウト」と報じた後、「ユニオンJのジョージ・シェリー『彼女がいたこともあります……でも彼氏がいたこともあります』」という見出しに変更した模様です。

LGBTIニュースサイトのGAY STAR NEWSもまた、途中で見出しを変更したようです。今でこそ「ユニオンJのジョージ・シェリーがセクシュアリティについて語る」という言い回しになっていますが、PinkNewsのスクリーンショットによれば、最初は「ユニオンJのジョージ・シェリーが両性愛者としてカムアウト」という表現だった模様。直しただけマシとは言え、性的マイノリティのニュースを主に取り扱うサイトとしては、これはずいぶん迂闊な報道の仕方だったと言えるのでは。

この手のラベリングの問題というのは本当に複雑で、LGBTニュースを訳していてよく頭を悩ませるところです。元記事に同性同士のキスとおぼしき写真や動画があったとして、それが「ゲイ・キス」や「レズビアン・キス」なのかはすぐには判断できないし、同性カップルに関するニュースが果たして「ゲイ/レズビアンカップル」の話なのかどうかも、ソースをたどって確認しない限りわかりません。これまでは海外ニュースの記述を見て判断するようにしていましたが、今回の件を見るに、なるべく本人による説明を探すに越したことはないかも。ちなみに自分が調べた範囲では、今回の報道でジョージ・シェリーを「両性愛者」とカテゴライズしていなかったのはIndependentMetro NewsNottingham PostハフィントンポストUKなどでした。ご参考まで。

*1:性染色体・性腺・外性器にはどれも多様な形態があり、2種類だけではありません。cf. 加藤秀一. et al. (2005). 『図解雑学 ジェンダー』. 東京: ナツメ社. p. 18.

*2:"pansexual": 日本語にすると『汎性愛主義の』。「すべてのセクシュアリティの人が恋愛や性愛の対象となる人」のことで、両性愛とはまた違います。cf: 薬師実芳. et al. (2014). 『LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性』. 東京: 合同出版. p.12.

*3:"genderqueer": 「従来のジェンダーのステレオタイプに与しない、あえてそれをミックスするという態度」のこと。cf. Eadie, J. (2006).『セクシュアリティ基本用語事典』(金城克哉, Trans. ). 東京: 明石書店. p. 125.

*4:"questioning": 「自分自身のセクシュアリティを決められない・わからない、または、あえて決めない人」のこと。cf: 薬師実芳. et al. (2014). 『LGBTってなんだろう?--からだの性・こころの性・好きになる性』. 東京: 合同出版. p.12.