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石壁に百合の花咲く

いちレズビアンの備忘録。内容は主に(1)LGBTニュース、(2)ガール・オン・ガールのポップカルチャーなど。

『たのしいせいてんかんツアー』(能町みね子、竹書房)感想

たのしいせいてんかんツアー

タイトル通り楽しく読める、タイでのSRS体験記

性同一障害の著者がタイでSRS(性別適合手術)を受けたときの入院手術体験記。テンポのよい文体とキュートなイラストのおかげでサクサク読め、すっごくおもしろかったです。

術後の痛みや入院延長の話など、ハードな部分もないわけではないのですが、全体としてはトロピカルで楽しい紀行文の世界だと言えます。いや、観光らしい観光の要素は「最初の日にヤギ牛乳を買ったコンビニと、フルーツを買ったスーパーだけ」(p. 125)だったりもするんですが、院内の様子や食べ物、タイ人の医療スタッフさんたちの話などがいちいち異国情緒豊かでおもしろいんですこれがまた。入院というのはただでさえ非日常の世界なのに、それを外国でやるとなると非日常の二乗で、それを著者のユニークな絵と文章で綴ったのがこの本だから、おもしろくならないわけがないんですが。

個人的には、本書のおかげでこれまでトランスジェンダーの知人から断片的に聞いていた「どのパーツをリサイクルしてどのパーツにするのか」がよくわかり、目の前の霧が晴れたような思いです。いやさ、Netflixドラマでトランスジェンダーの女性キャラ(演じているのもトランス女性です)のベッドシーンを見て、その知人と「これってこの角度でこうなってるけど実際に気持ちいいの?」「気持ちいいわよ、だって工事(と彼女は言う)のときにここをこうしてこうなるようにしてるんだから」「へー」「でも藪医者に当たると腐って落ちるのよこれが!」「!!!!!」みたいな話は時々してたんですが、陰唇を作ったり「溝」に皮膚を貼ったりするところまではどうなってんだか知らなかったんですよね。そういうことを医学書でも医学論文でもなく、当事者視点の平易な語り口調でツルツル読めるというのが、この本のすばらしいところだと思います。

最後に、本書の中でいちばん「いいなあ、これ」と思ったフレーズを。

ぜひぜひ気楽に興味本位で、お読みください。

「まえがき」の中のこの言葉は、読み手の心のハードルを下げるとともに、よくある「感動の美談!」的なキラキラセクマイストーリーではありませんよという宣言の役割も果たしていると思います。本当にその通りのカジュアルなエッセイなので、セクマイ以外のいろんな人にもぜひ楽しんでいただきたいです。……いや、「海綿体を掻き出して、亀頭の皮をこう使う」みたいなテクニカルな話で脳貧血を起こしそうになるタイプの人だけは、ちょっと向かないかもだけど。

まとめ

性同一障害やSRSに興味がある人のみならず、さっくり読めてわははと笑える軽い読みものをお探しの方にも「これ、いいよ」とおすすめできる1冊。もっと早く読めばよかったです。

たのしいせいてんかんツアー

たのしいせいてんかんツアー